一本釣り

 道具立て=竿は船に常備されているカツオ一本釣り専用竿。道糸はナイロン30〜40号。ハリスはナイロン20〜24号が一般的。
        ハリは漁業用カツオバリ。

 通常、乗合船では一本釣りが数を釣るには一番有利です。
 それでも、同じ船に乗っているのに、工夫ひとつで釣果にはかなりの差が出ます。せっかく船長さんが群れを探してくれたのに、あまり釣れないと、申し訳ないうえ、もったいないです。そこで、数釣りのコツを紹介します。
 
@まず、イワシを弱らせないようにハリに付ける。
 これが何よりも重要です。弱ったり死んだイワシでは、よほど食いの良いナブラでないと、魚が食ってくれません。バケツには水をたくさん入れ、餌のイワシは大型なら2〜3尾、小さいものでも5尾そこらと少なめにして、酸欠を防ぐことが何より大切です。
 理想を言えば、バケツには海水だけを入れておき、ナブラに到達した時に素早く船の生簀からイワシをすくいたいです。

 イワシはカマ掛けといって、エラブタの縁に掛けると、泳ぎのバランスがよく、下に潜るので一番良く食います。非常に食いの立っている場合は、鼻に掛けても大丈夫ですが、大型のシコイワシやマイワシを使う場合は、鼻に掛けると針先がイワシの頭に当たり、魚の口に掛からない恐れがあります。



A餌は散水の向こうに入れる。
 魚は散水の先に入ってきますが、餌が手前に来たら、散水の向こうに入れ直します。それを2、3回繰り返しても食わなければ、即座に餌を交換します。餌をケチらないのがコツです。

Bハリスは大丈夫?
 場合によっては、ハリスが魚の歯でザラザラに傷ついていることがあります。いくら太いハリスとはいえ、そのままではいつ切られるか分からないので、改めてハリを結び直しましょう。 
 また、魚が散水に入ってきても付け餌を食わない場合は、ハリスの号数を落とします。細いほど切られやすいものですが、食いの良さには代えられません。この場合はフロロカーボンの16号前後まで落とすことがあります。ハリス切れが心配される場合は、あらかじめハリを結んだハリスを、道糸にすぐ結べるよう、チチワまで作っておいて数本ずつ用意すればよいでしょう。

C手返しの速さは?
 仕立なら、竿を振るだけで魚を外せるバケを使った釣り、タタキができますが、乗合船では安全のために、イワシを刺す餌掛け一本釣りが主流です。(上乗りさんも、バケで食わないと見るや餌掛けで抜きあげます)
 その際、要求されることは餌をなるべく素早くハリに掛け、魚を取り込んだらハリを外す技術が必要です。魚が食ったら手にガツン! と強烈に伝わるので、アタリが来たら、一呼吸入れて魚を自分の胸に当てるようイメージして、船の中に跳ね込みます。大きなカツオやキハダなどが食った場合には、素早く相手の頭を手前に向けないと、竿が伸されてハリスが切られることもあります。
 魚を船に入れたら、小型魚はエラブタ周辺を握り、大きければ脇で抱えて動きを封じ、その間に素早くハリを外します。掛かりどころによっては、ラジオペンチが使いたくなる場合がありますが、カツオバリならすぐ外せるものです。もし飲まれていたら、強引に引っ張って構いません。

Dあなたの立ち位置は大丈夫?
 カツオ船は散水と撒き餌で魚群を船に寄せますが、釣るチャンスは舳先ほど有利です。そのため、職漁船では舳先の一番先に陣取る釣り手をヘノリ(舳乗り)と称し、一番優れた腕の漁業者がヘノリとなる習慣があります。それが水揚げ高を高めるための実力主義の考え方です。
 そこで、我々一般客が乗船する場合は、それに習って舳先に近い釣り座を狙います。仕立なら舳先そのものから、乗合なら上乗りさんの後ろ(通常、撒き餌用の生簀がある)から並びますが、カツオなら前から3番、せいぜい5番目までが一本釣りを楽しめる範囲でしょう。
 特に警戒心の強い大型のカツオやキハダは、舳先側の散水にしか入らないこともあります。
 しかし、メジマグロ主体のナブラなら、船の中央部(胴の間)までの散水に入ることが多いため、より大勢が一本釣りで入れ食いを堪能できるでしょう。
 繰り返すようですが、前ほど有利な傾向があるので、なるべく釣り人同士でも隙間を詰め、少しでも舳先側に餌を入れることを心がけましょう。
 では、前の方に入れなかった場合には?
 そんな時は、一本釣りを諦め、フカセ釣りを楽しみましょう。


 
フカセ釣り

 道具立て=船にも丸枠に道糸とハリスを直結した仕掛けを巻いた、伝統的な手釣りで行う、
フカセ道具があります。
        
 しかし、よほど扱いに慣れていないと、仕掛けを送り出し、手繰り込む過程でトラブルや時間ロスが生じやすく、大型魚が食ったときは、なおさらやり取りに技術を要するので、カッタクリと同様、釣り味に拘るのでなければ、竿とリールを使ったフカセ釣りが無難です。
 専用と銘打った竿やリールはないので、いわゆる沖釣りの世界では、アジビシ竿やワラサ竿、ライトな泳がせ釣り用の竿を流用し、リールは大型の両軸リール(レバードラグのトローリング用や泳がせ用のリール、石鯛やジギング用など)を使いますが、これらの道具を使う場合は、仕掛けの送り出しに少々手間取る側面が拭えないため、新しく道具を用意するなら、スピニングタックルに限ります。船竿にスピニングリールだけ取り付けて使う人もいるくらい、スピニングタックルの操作性は群を抜いているのです。
  
 余談ですが、サバやスルメイカなど、ワンランク大型の餌を使う場合には、カンパチなどを狙うための泳がせ竿に、トローリング用やライト泳がせ用のリールを使う両軸タックルが無難です。この場合は数十sが食う可能性も高いため、最悪の場合はロッドキーパーに竿をセットしてウインチファイトに持ち込むこともできます。ただ、相模湾で使う可能性は極めて少ないでしょうが、遠征などされる際はご参考までに。

 スピニングタックルに適しているのは7〜8フィート程度のシイラなどのキャスティング用ロッドと、使用ラインが200〜300m巻けるスピニングリールです。短いジギング用ロッドでも大丈夫ですが、魚が潜ったときに船底で切られるのを防ぐのと、ハリスを長めに取りたいことを考えると、ある程度の長さがあった方が安心できます。また、この道具があればルアーで狙うことも可能になります。ルアーの場合はキャスティングすることが多いので、新規に購入するなら必ずキャスティング用のロッドを用意して下さい。
 ちなみに道糸は5キロ以下が多い、通常のナブラならナイロン16〜20ポンド、PEなら2号で十分ですが、大型のマグロが回っているなら、強度確保の意味を考えてPE4号以上が無難でしょう。その場合は最低でも300mは巻いてください。
(ルアーと違い、細めのハリスにハリ1本で勝負するため、初期ドラグは3〜3.3kgで走らせて下さい。その後はポンピング時にドラグが滑る時のみ、徐々に締めていきます)
 ハリスはフロロカーボンの10号〜16号を通常は使いますが、マイワシなど大型の餌がある場合に限り、大物狙いなら20号以上を使うこともあります。ハリはワラサ、ヒラマサ用の他、管付きの伊勢尼や沖縄のタマン用など、石鯛用のハリよりは細軸のもの、銀か黒色をしたハリを私は好んで使います。なお、伝統的なカツオのフカセバリも面白いでしょう。
 それでは、フカセ釣りの詳細を説明しましょう。

@餌を送り出すメリット
 魚が撒いた餌を食っても、船の散水には入らないということもしばしばあります。
 この場合はフカセでないと、魚の前に餌を届けることができず、釣りにならないことがあります。ですから、万一に備えるならば、一本釣りを楽しむつもりでも、フカセの道具立てを持参するのが安心です。   
 船から5〜10mも送り出せば当たることが多いですが、スレている時や大物を狙う場合は数十m送り出すこともあります。オマツリには注意しましょう。

A大型魚が期待できる
 散水に入らない魚は、大型魚であることもしばしばです。特に5キロを超えるキハダは散水の外で餌を食って終わりということも珍しくないうえ、もし掛かっても、よほど慣れていないと頭を手前に向けることができず、即座にハリスを切られる場合が多いものです。基本的に5キロ以上の魚を狙うなら、フカセでないと食わせる機会があるか保障はできません。(もちろん、職漁船が操業する外洋は別です)
 優れたリールと、リフティングパワーのある竿を使えば、回遊があれば20キロや30キロのマグロまで視野に入れることができます。

Bやり取りが面白い
 好みの問題ですが、一本釣りで釣れる場合でも、あえて積極的にフカセ釣りにチャレンジする考え方もあります。3キロ程度のカツオ・メジなら、一本釣りでは一気に抜きあげることができます。しかし、この魚を手釣りで、あるいは竿とリールで挑戦すると、その引き味は実に楽しいものです。
 ある程度一本釣りを経験したら、一本をより楽しむという観点から、ぜひカツオ・メジの手応えを堪能してほしいものです。
 ちなみに、某名人はマダイ竿にギア比が1:1のサーモン用ムーチングリールや、ソルト用フライリールを使うことを提案しています!

C食わせるこつ
 では、フカセなら誰でもそこそこ釣れるかといったら、やはり話は別です。ある場合はキハダを5本ほど釣る人がいる一方、ノーフィッシュに終わる人が出ることもあるよう、ある程度の技術が必要です。それはどのようなものでしょうか?

―1:ハリスとハリの太さは適切か?
―左舷より散水して行う一本釣りは、水しぶきである程度太いハリスや疑似餌をごまかすことができます。しかし、散水が当たらない右舷では、仕掛けを隠すものは何もないのです。そうなると、目の良いカツオやマグロは怪しい餌には見向きもしません。
 通常、カタクチイワシを餌にするなら10号〜12号が無難で、大き目の魚がいる時でないと16号では食わないこともあります。
 でかいマイワシほど、太いハリスを付ける事ができますが、カツオや5キロまでのキハダが主流なら、細いに越したことはありません。もし10キロ級が食っても飲まれなければ10号でも十分に獲れます。(ただし、貪欲なキハダが食い盛っている場合は、手返し優先で太いハリスも重宝します)
 ハリですが、ヒラマサ用の12号〜14号に順ずる大きさのものを基準に考えてください。細軸過ぎると伸びるか折れるかですが、あまりに軸太なハリは、マイワシでもあっという間に弱ってしまいます。 

―2:仕掛けの接続方法は?
―ウキもオモリも使用せず、餌を自然に流すのがフカセ釣りです。そこでラインシステムを組むことになりますが、面倒だからといってサルカンなどを介すると、イワシの泳ぎを妨げ、食いが落ちることは避けられないでしょう。
 具体的には、ジギングやキャスティングと同様、FGノットやPRノットを使いますが、これらのシステムを組む時間がなければ、ビミニツイスト&セイカイノットも有効です。(キハダを2m近いサメに食われ、引っ張りっこした時も大丈夫でした)
 餌が潜らぬ場合、ハリスにカミツブシを打つ場合がありますが、これも常に有効とは限らないのです。むしろ、イワシが潜りやすいようなハリの掛け方を練習した方があとあと役立ちます。

―3:ハリスの長さは大丈夫か?
―道糸がナイロンの場合は心配ないですが、PEラインを使う場合、あまりにハリスが短いと食うか保障できません。また、大型魚が掛かってやり取りする際、尾びれにハリスが巻き付いて上がって来ることもあるので、最低でも1.5m以上のハリスは必要です。私は3m程度付けていますが、取り込みでは長い方が有利な反面、ハリスが長すぎて餌を送り出すのが遅れても本末転倒です。その辺りも考えてください。 

―4:餌は元気に泳いでいるか?
―一本釣りと異なり、長距離を泳がせて魚を狙うフカセ釣りは、なおさら餌の扱いが重要です。元気な餌を放り込むだけでなく、その餌がどこに泳いでいくかが明暗を分けるといえるでしょう。せっかくいい餌を付けても、魚が食わないか、下手をすると鳥を釣る羽目になります。
 まず、元気のいい餌を使うということを徹底させてください。大きくても活きの悪い餌では、効果が半減します。なおかつカタクチイワシを潜らせたいなら、カマ掛けに勝るものはありません。ただ、マイワシを使う場合は、元気が良すぎてカマに掛けられない場合があります。マイワシはよく潜るので、その場合は鼻に掛けても大丈夫です。
 投入前にハリを掛け、バケツに入れておく人がいますが、イワシはさかなへんに弱いで「鰯」と書くほど弱りやすい餌なので、これではいざ釣りを開始しても、餌が弱って魚が見向きもしない可能性があります。投入直前にハリに掛けたいものです。
 餌を海に放したら、自分から見て正面。つまり船から見てま横に泳ぎつつ、どんどん潜っていく形が理想的です。水面をチョロチョロしている餌は鳥に食われることが多く、魚の活性がよほど高くない限り、潜った餌が先に食われます。
 しかし、餌が潜っていっても、船の下に潜るばかりということもあります。船底という物影から離れない餌は、やはり当たりが遠のくため、この場合はやや沖目に軽く餌を投げると、そのまま沖へ泳いで行ってくれることが多いものです。この操作はスピニングタックルがダントツに優れています。そして、餌を送り出すためには軽い抵抗を掛けると、マイワシはその抵抗から逃れようとどんどん沖へ向かいます。餌を行かせたいなら、反対方向へ抵抗を軽くかけるのがこつです。
 カタクチイワシの場合は、遊泳力があまり強くないので、潮の流れに乗せて、道糸がたるまないように送り出します。
 このようなことを考えても、あまり太い道糸は感心できません。

 なお、魚が撒いた餌を艫で取って姿を消す場合は、上乗りさんが餌を撒いた直後、その餌に同調させるよう艫から流さないと当たらない。
 

―5:早合わせは禁物です。
―フカセの当たりも明確です。時に餌の追われる様子が感じられることもありますが、通常は道糸がいきなり猛スピードで引き出されて行きます。魚は高速で泳ぎつつ、餌を飲み込みますが、5〜10mほど道糸を送り込み、そこで送り込みを止めます。合わせは不要です。
 合わせが早すぎると、餌だけが取られますが、あまり長く食い込ませる必要はありません。特にスレた魚は、途中で違和感を感じて吐き出すことすらあります。
 送り込みを止めた瞬間、ギュ―ンと持って行かれることが多いですが、もし向こう合わせにならなくとも、少し待ってみてください。餌が大きい場合はその間に食い込むこともしばしばあります。



引っぱたき(ブッペ)

 道具立て=竿は船に常備されているカツオ一本釣り専用竿。道糸はナイロン30〜40号。ハリスはナイロン20〜24号が一般的。餌掛けよりも太いハリスを使うこともある。
 専用バケ(カブラ、ツノなどとも称する)をループノットで結ぶ。

 テレビでお馴染みの、竿を振ると魚が自然に外れる、返しのないバケを使った一本釣りです。
 この釣りは、職漁そのものですが、乗合船では上乗りさんが仕事で使い、一般客は安全のため、イワシを使った一本釣りになりますが、仕立て船ならこの「引っぱたき」(あるいは「叩き」ができます。(一部のルアー船でもできる可能性があります)
 
その名のとおり、 バケを激しく水面に叩き付けて魚にアピールします。バケのハリに、ジグヘッドのようにオモリが溶接されているので、一気に沈めて誘うこともできますが、ある程度重さがあった方が、操作性はよいものです。

バケの魚皮に、皆がこだわりますが、市販されているものはシャミ(猫の皮)が主流で、職漁でもシャミを使います。他にはシイラやハモ、ナマズ、バラフグ、イシナギ、イシダイなどの皮を使いますが、カッタクリのバケと同様、魚皮にも拘り出すときりがありません。

漁獲方法
 魚が船に付いたら、舳先に立ってこのバケを水面に叩き付け、横に引いて誘います。魚が食ったら、餌掛けと異なり、頭が手前に向いたまま掛かるので、そのままバケを引いている方向へ抜きあげます。
 そこで竿を振ると、魚は自然に外れるので、勢い余って魚を海に戻さないよう用心してください。このバケは江戸時代には既に考案され、地域ごとに独特のものが使われていましたが、餌を付ける手間、魚を外す手間が不要なので、食いが立っているときは手返しの早さで、驚異的な水揚げが可能です。餌掛けで1本釣る間に、バケなら3本は堅いでしょう。
 本格的なバケが普及する前は、布きれをハリに刺して釣ったという話もあります。職漁的要素が100%の釣りですが(淡水ではオイカワ、ウグイのフットバシ釣りが相当)これも実に面白いものです。


 仕立て船ならば、まずは引っぱたきでお土産を確保し、それからルアーやフライで遊ぶのが定番のスタイルといえるでしょう。

 それでは、皆さんも好きな釣り方を選んで、チャレンジして下さい。

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