番外編・沖縄遠征2006年

筆者はTVチャンピオンに出演した後、パヤオでのフカセ釣りを堪能した。

2006年2月22日 


 沖縄の漁連に問い合わせたところ、現在、那覇近郊でパヤオ漁をやっている漁協は知念、糸満、そして沖縄市だという。上がっているサイズは10kg前後が多いと聞いたが……。やはり多いのはキハダだ。

 そこで、糸満漁協に電話してみるが、パヤオ担当の上原さんは今、出払っているとかで昼過ぎに電話をかけてほしいとのこと。


 モノレールのコインロッカーにとりあえず荷物を片付け、那覇空港で帰りの手配を終えた頃にはもう12時になろうとしていた。13時過ぎに電話しよう。それまでは牧志で土産を物色したり、昼に地魚を食べればいいのだ。

 牧志に着いた頃、13時を回ったので再び漁協に電話してみる。 

 その結果、遊漁船の紹介を受け、与根漁港の「大将丸」の船長から、「22日に出る。船代は餌、氷代込みで15,000円」と聞いて俺は有頂天になった。

(後ほど、「23日は仕立て扱いでもいいから出してくれないか」と聞いたら、「それは可能。詳細は後で相談」とのこと)

 なお、7年ぶりの牧志ではグルクンを食べたり、家と大楠漁協にパインを送ったりし、その後は観光案内所に行って与根に比較的近い、小禄のホテルに三日連続で投宿することに決めた。(ハイパーホテル那覇) 

 しかし、21日は丸一日空いている。どうしようか?

 マンモス丸の乗合で深場釣りは? しかし、河口でルアーを投げているうちに夜がふけて、予約可能な時間を過ぎたことや、船代はともかく、交通費や発送料金が心配で、船からの釣りはパヤオ一本に絞ることに決めた。

 小禄のハイパーホテル那覇は、5000円弱の料金としてはなかなか快適だったが、(朝食のサラダはもう少し食べたかった)一日、何もしないでいるのも……。と思い、ジンベイザメやオニイトマキエイ(マンタと呼ぶのは当たり前過ぎて…)を展示している美ら海水族館に向かった。

 バスで名護まで行き(ロケ中に泊まったホテルや、バスターミナルなどは既に見覚えあり)、さらに乗り継いで美ら海水族館までには実に三時間もかかってしまった!

 しかし、その途中の海は実にきれいで、ルアータックルを持ってこなかったことを真剣に後悔したほどだが、それはまたの機会にしよう。トレバリーをシーバスタックルで狙ったら1キロ前後でも相当楽しめそうだな…。

 などと考えつつ、美ら海水族館では館内ツアーで大水槽の上部を見学するわ、係員を質問攻めにするわ、写真を撮りまくるわであっという間に時間が過ぎていった。平日なのに春休みシーズンだからか人でいっぱいだ。混み具合は半端ではない。

 しかし、オオメジロザメを見られたり、俺が釣ったくらいの10キロ級のクロマグロや沖ゴンドウのショー、マナティーや海亀を見たりして閉館ギリギリまで粘ってしまった。

 水族館から排水される流れ出しも、かなりの勢いで流れていたため、ルアーがあればぜひ投げてみたかったが、美しい風景に感動しながら水族館を後にした。

 その後は? 30分以上バスを待つことになるか? と考えたが、タクシーの相乗りをしないかと女性グループ(2人、1人)との誘いに乗って、バス料金よりも安価な値段に喜び、車内では歓談に花を咲かせつつ名護まで向かった。

 で、そのうち1人で来ていた人とは同じバスになったので、お互いの話に盛り上がりつつ、別れを惜しみながらそれぞれ宿に戻る(仕掛けたりしていません、念のため)。

 翌日の釣りに備え、マンモス小禄店でジグやポッパー、ミノーまで買い込んでからタクシーの手配を済ませ、PE8号でビミニツイストを作り、就寝…。

 

 翌朝、朝食のカップラーメンをひと息で平らげると即座に準備を終えて、タクシーに飛び乗った。運転手さんは娘さんがダイワのゴルフ部門に勤めているとかで釣りの話で盛り上がり、与根漁港に着く。

 しかし、ゲートが開いていないので船長に携帯で連絡をとり、ゴアテックスのウェアを羽織ってしばし待つと船長が車で来たため、バッカンだけ積んでもらって船まで走る。

 私以外にも客は4人来ていたが、揃いも揃って持ってくるクーラーがでかい! 相模湾なら深田家の中乗りさんでもなきゃ使わないようなイグローの150180リットルだ。獲物がでかいからなんだねえ。

 で、私はゴウマンにインターの16Sを取り付け、グランビューにはエンブレムを付けてルアータックルを完成させた後はいつでもフカセがやれるよう準備し(ご当地のロッドホルダーは斜めになっていました)、全員の準備が整った頃、まだ暗い海を船はパヤオに向けてひた走った。

 海は凪いでいたため、全く問題ないが、隣の釣り人が作っていたロープとケンケン針の仕掛け(後でシイラ用と分かった)に絶句したり、船長が漁で使うであろう釣り機(ラインホーラー)に驚いたりで、初めて沖縄の釣り船に乗ったという感動を引きずりつつ、明るくなっていくと共に船はパヤオに近づいた。

 そこで船長に仕掛けを聞くと、道糸にサルカンを付け、その先にハリスを結ぶという単純なものなので、すぐフロロの12号に針を結んでみる。餌はキビナゴの1尾掛けだ。

 他の釣り人を見ると、1人はパラシュートのようだが、後の3人は電動ジギングでもしているのか、やたらと勢いよくしゃくっている。間もなく、5キロ級のキメジが上がった。

 それを横目に見ながら、深田家を思い出して流す。ラインを引き出しては送り込むうち本日第一号が手元を襲った。

「来た!」

 竿が気持ちよく曲がり、高速で獲物は突っ走ったが、明らかに小型だ。それでも引きを楽しみながら寄せてくると青い背中が見える。本ガツオだ!

 おっしゃあ! 今年の初鰹!

 素早く抜き上げ、針を外すとすぐに次が来た。今度のは1キロ級のキメジ(ご当地ではシビ)だ。何とも可愛いサイズ。
 他の釣り人もポツポツと魚を獲っていたが、一度、仕掛けを上げて流す。その間もペンシルをトローリングしたが当たりはなかった。

 船を立て直した後も、流すたびに当たりがあってキメジが来たが、次はツムブリだ。関東では離島に行かないとなかなかお目にかかれない魚なのでありがたくキープ。結構旨いらしい。

 その間に船長が私の分の電動リール一式をセットしてくれたが、なんと鋳込み式(100号か150号)のテンビンの先に20号のハリスと管つきムツ針、そこにエビの形をしたワームを付けて電動シャクリで釣るのだという! 他に餌は付けないようだ。
(後ほど、村越正海氏がエビングと命名)


 いやー、驚いた。フカセやパラシュートなら本土の人間も知っているが、この釣方で釣れるとは、昨日はこの釣方で30キロのキハダが上がったという! 驚きだ。

 他の2人もそうだが、フカセの仕掛け(スピニングリール使用)を流しつつ、電動の仕掛けを落としてしゃくるのだから効率的だ。相模湾に比べるとカツオもシビも容易にヒットしてくるが、それに気を取られすぎて肝心の大物狙いを疎かにしては大変だ。

 始めてから最初は、小物が多かったが、それでも相模湾のレギュラーサイズだ。やり取りの練習と割り切って、取り込んだ獲物はエラを抜いては血を洗い流し(ホースで海水が流れるようになっている。便利だ)、砕氷と海水の効いたクーラーに片っ端から沈めていく。いい土産になるはずだ。

 そのようにして、10本前後は獲物を仕留め、その合間にジグをしゃくったりペンシルやミノーを投げていたが、右舷側から投げていたせいか当たりはない。

 ならば、とブイが近づいて来たときに思い切って左舷の釣り座でピンテールチューンを投げると一発でヒット! シーバスロッドで掛けるとかなり楽しめるが、ナイロンの伸びが魚の引きを吸収してくれて、しばらく引きを楽しんだ後、獲物はその姿を見せる。カンパチだ!

 明らかに1キロ半はあるカンパチがミノーを咥え、右往左往しているが、隣同士の釣り人は仕掛けがオマツリしているのでその間を縫ってタモですくってもらった。


 いやー、小ぶりなんだろうけど俺が釣ったカンパチの中では一番でかい(情けない話だが)、ヒレナガカンパチのようだが食べたらシビなんかより遥かに美味しそうだ。このクラスのカンパチをあと5、6本は獲れたらでかいキハダが来なくてもいいか?

 などと考えつつ、餌釣りに戻るとブイの近くでは撒かれたキビナゴにツムブリ、小型のカンパチ、シビなんぞが先を争って食らいついているが、12号のハリスには警戒気味。今考えれば、ルアータックルに(リーダーはフロロ6号)針を結べば良かったが、とりあえず続けるとなぜか40センチ級のムロアジが食って来た。何でまた?

 その間にも、パラシュートで釣っていた釣り人は10キロ級を仕留め、しばらくして20キロ級まで上げてしまうのだから恐ろしい。やはり良型は深いところにいるのか?

 しかし、電動には小さいのしか当たらない。

 とりあえず、カンパチをもっと釣ろうと6号のフロロに針を結び直したが、その間に船はこのパヤオを後にしたため、次のカンパチがヒットすることはなかった。
 次のパヤオはかなり小さめだが、明らかに魚影は濃かった。あちこちでトリヤマが立ち、ナブラが出て本ガツオが飛び跳ねまくるのだから恐ろしい。深田家の船長や中乗りさんがこの光景を見たらどうなってしまうのだろうか? 

 そのナブラが右舷側に回って来た一瞬を狙い、ピンテールチューンをぶん投げた。

 ただ巻きを開始した直後、急に重くなった! 一発で当たるとはいい! しばらくは強引に寄せられたが、疾走するとドラグが滑る滑る。やはりシーバスロッドだから小型と分かっていても面白い。一しきり、引きを楽しんだ魚はやはり1キロ級の本ガツオだ。

 だが、餌釣りもそれどころではない騒ぎになっていた。

「魚が浮いているからフカセでやれ!」


 船長が叫び、フカセで狙っていた2人の竿がほぼ同時にへし曲がる。明らかにこれまでのシビとは引きが違う。リールから恐ろしい勢いでラインが引き出されていく。闘争心が一気に燃え上がった。

 しかし、私の隣の釣り人はハリスが切られたようだ。もう1人は船の中を半周してやり取りを続ける。

 前が空いた私も好機到来とばかり仕掛けを流すと、狙い違わず大当たりが来て猛烈な勢いでラインが伸びていく。これまで掛けたことのない手応えだが、今度はアジビシ竿ではなくワンピースロッドに、ベアリングが1個の電動手巻き仕様ではなくトローリングリールを使っているのだから心配ない。何より、自分のこだわりで選んだ道具だからやり取りが楽しい。最高だ。

 走る相手に遠慮なくラインをくれてやり、他の釣り人の竿をかわしながら移動し、やり取りを楽しむ。走りが止まったところでポンピングを効かせ、正確に浮かせる。この時を夢見ていたが、至福の瞬間だ。

 やがて、魚はぐるぐる回りをしながら姿を見せ始める。一度、人影に驚いて獲物は遁走を図ったがそれで失敗するほど私もやわではない。旋回を繰り返しながら、ついに空気を吸ったキハダは船長のタモに収まった。10キロあるかどうかのサイズだ。

「ありがとうございます!」

「やったねえ」
 同船の釣り人に写真を撮ってもらい、獲物の頭をハンマーでぶん殴っている間に、先に掛けた釣り人も魚を寄せていた。タモに収まったそいつは私の獲物より明らかに大きい。こんなやつを仕留めたいものだ。

 それから数本釣った後に、私の仕掛けに又も良型がヒットした。最初は軽いので小型かと思ったがとんでもない勢いで突っ走る。しかし、先ほどのやり取りでこつを覚えたからもう心配ない。

 そう思ってやり取りを続け、ついに10キロ前後の獲物は水面まで寄ったが、右に左に逃げ回り、なかなかタモに納まらない。最後に針がすっぽ抜けた!

「あちゃー!」

 マグロは即座に青の世界に舞い戻った。残念! まさか水面まで寄せてばらすとは!

「ハリス切れなら腕のせいだけど、針が外れちゃうのは仕方ないね」

 と船長は言う。

 確かに! 以前、深田家のマグロ狙いの時も、年末にアジビシ道具で挑んだ時は最初の当たりは外れてしまったんだようなあ……。だけど切られたことはなかった。ラインブレイクするほどの素人ではないと自負しているが、あとはいかに最適なテンションを掛け続けることかが課題だ。弱すぎても掛かりが浅くて外れてしまうし、強すぎればハリス切れか針穴が広がってそこから抜ける。

 しかし、その合間にも電動シャクリで当たり、フカセは小型が入れ食い状態。

 これじゃあ、相模湾でキメジを釣って喜んでいた俺って……。どうやら俺は、引き返せない道に足を踏み入れたようだ。ま、カツオよりはメジが、メジよりは大型のマグロが釣りたくなるのは当たり前だよなあ……。

 おまけに、今年から勤め人となれば、毎年でも沖縄に来れる!

 などと考えつつ、再び右舷に出たナブラに向かってぶん投げると一発でカツオが来た。しかし、とんでもない勢いで突っ走る。

 何だ何だ? と首を傾げながら寄せてくると、カツオの後をメーター越えのでかいシイラが付いてきている。明らかにカツオを狙っているのだ。とんでもないシイラだな!

「こらこら、このカツオは俺のだ!」

 油断も隙もあったものではない。既にシイラに齧られて傷だらけのカツオを何とか船に抜き上げると、後はフカセに電動シャクリを続行した。

 その後はひときわカツオのナブラが増え、青い背中を見せてぽんぽん跳ねる。弁当を忘れた私は傷物カツオの刺身を作った。予想より脂が乗っていて、実に美味しい。ついつい食が進む。船にまな板があって良かったな……。

 相模湾よりもはるかに魚影が濃く、なおかつ船も安定しているため安心して刺身が作れる。佐島の一本釣りではとてもじゃないが、釣っている途中で刺身を作る余裕などないが、ここなら遠慮なく食べられる。

 そして沖上がり直前、またもや良型がヒットした。これを逃したら後がないだけに慎重にやり取りを続けるが、とにかく楽しくて仕方ない。10キロ級なら充分余裕を持って対抗できるタックルを使用している上、竿も軽いからスタンディングファイトも楽。何よりただでさえ強烈なマグロの引きを自分の好きなタックルで楽しんでいるのだから最高!

 尻手ロープから竿を外し、ポンピングを繰り返す。竿がいいため、12号でも全く切れる心配はない。ドラグ調整さえきっちりすれば絶対に取れる! サメはいないようだ。

 懸命のやり取りの末、ついにキハダの魚体がぎらぎら輝きながら浮上してきた。今度は主導権を握るべく竿を魚の前に持って行き、抵抗をかわす。

 タモに獲物は収まった。

 素早く船長が獲物の血抜きをして、私も祝福されながら写真を撮ってもらった。
 いやー、ラストに二本目を取れて良かった。これだけ深田家で釣れたら大騒動だな! もし関東で同じサイズのキハダを狙うなら下田まで行ってイナンバへ走らなきゃ無理だ。そんな真似をするより、こうやって沖縄に行く方がいいね。

 かくして、10キロ級を釣った人も、小型のみで終わった人も(地元勢はカツオやシビの内臓でシイラを手で釣ってました。メーター級を上げた人も)、互いに歓談しつつ、沖縄の釣りに驚かされる。

 何でも「徳光丸」という船はカンパチで有名で、船長は50箇所くらいポイントを知っているとかで、常に予約でいっぱいらしい。でかいのがガンガン上がるとか! 大東島などでも50キロや60キロのカンパチがルアーで上がるという!

 また、沖縄近海はカジキも豊富だとかで、同船者の1人は先日に一本揚げたとか。俺も「生涯に最低一本」という目標から、「生涯数十本は獲りたい」と欲ボケに?

 さらに、マグロも夏だと夜釣りでイカを餌にして釣るらしいが、そうなると明かりに釣られてパヤオから船が離れてもマグロの群れがゾロゾロ付いて来るんだとか! そういうのは数十キロもいるというから凄まじい話だ。下手すりゃ一晩で2〜300キロ釣ってしまうかも?!

 また、一度だけパヤオ周辺で200キロ級のクロマグロが100本くらいぼんぼん跳ねてカツオを食っていたのを見たという話も聞いては黙っちゃいられない。80ポンドか130ポンドのタックルを用意しなきゃ上がらないだろうが、やれるなら何とか仕留めたい。

 

 その後は船長に宅急便の店まで魚もろとも運んでもらい、家やら何やら三箇所くらいの宛先に獲物を送り、明日も船長の職漁に便乗で出してもらうこととなり、先に船代を支払い、タックルを船長の車に置かせてもらって投宿先に戻った。

 なお、船長に確認したところ、PE(ビミニツイストのところに傷ができていた)の先にナイロンを結んだ方がショック吸収にいいと聞き、バス停の途中にあった釣具店(同船の釣り人が行きつけにしているみたい。店員さんより)で銀鱗の10号10m巻きを二つ買ってしまった……。マンモス小禄で買えば良かったかも?

 そんなこんなで、投宿先の隣にある店で貯金を少し下ろし、夕食や朝飯、飲み物を仕入れるが、さらには翌朝がそのままチェックアウトだから、コインランドリーで洗濯し、荷物をまとめるのに予想外の時間を食ってしまったが、夕食もかなり上手く解決してしまった。俺って生活能力あるのかも……。





2006年2月23日

 で、翌朝にチェックアウトとばかりホテルを後にし、途中のコンビニでインスタントカメラを追加し、運転手さんには船の前まで送ってもらう。

 船長も程なく到着したので、迷わず出発だ。

 今日は船長も釣るので(昨日はちょこっとジグっていたが、当たりはなかったよう)まだ暗い内に漁協で氷を追加し、さらには冷凍ムロアジまで買いこんでから船は昨日と同じパヤオを目ざす。

 昨日見たカンパチを釣ろうと、スピニングタックルに5号ハリスの丸セイゴ針を用意してきたが、やや波が高く、気温が低い(港に着いた当初は霧雨)ためかキビナゴを撒いても効果はない。

 フカセにしばらくして当たったが、跳ねないのにシイラだった。70cm級のシイラだが、とりあえず船長の勧めでクーラーに入れる。

 電動シャクリでも当たりはないので、早々と最初のパヤオを後にした。

 次のパヤオで電動とフカセの二本立てを再開する。今回は客が俺一人なのでまめにキビナゴを撒いて群れをおびき寄せる。

 それが効いたのか。電動の竿をいじっている間にヒット!

 でかい。一発目から大型とは! 魚は数十メートルを一気に突っ走るが、その時の迫力は相当なものだ。昨日のキハダより型がいいのは間違いないだろう。

 やがて、魚は真下へ潜った。一メートル巻いても、二メートル引き出されるような膠着状態となり、私はリフティングの機会を待った。

 同じガイドの場所を何度も行き来するのは明らかにPEに悪い。あまり竿を立てすぎないように心がけながら、リーディングの威力を信じ、じわじわと上げていく。
 10分、15分……。時間はどんどん経過し、魚は真下に突っ込んだ。船底に擦れては
PE8号もあっけなく切断される恐れがあるため、ミヨシを回り、船長に竿を一瞬だけ渡してもらって右舷に回りこむ。

「これは12キロくらいだね」

「そのサイズなんですか……」

 てっきり20キロ以上あると思っていたが、やり取りに30分もかけてしまったため、ドラグテンションが緩すぎたようだ。しかし、先糸はナイロン10号、油断は出来ない。

 ファイトシーンを撮影してもらい、念のため船長が銛を用意した頃、魚もついに力負けしてきたのか、ぐるぐる回りしながら浮上してきた。銀白色の腹が紺碧の海に美しすぎる。

最後の最後まで油断せず距離を詰め、本日第一号のキハダにギャフが打ち込まれた。

「おっしゃあ! 10キロ級でもいい引き!」

 船長が尖った金棒を脊髄に通して魚を締め、写真を撮るや庖丁で何とか鰓を切り取り、ホースで獲物の血を洗い流す。大型の生き物を殺すことはある意味残酷に感じられるかもしれないが、決して無駄にはしない。
 次は電動シャクリを続けるが、どうも当たらない。ルアーも12センチのミノーを投げているが当たりはない。

 フカセの方が分は良いようだ。撒き餌が利いてくるとシビがポツリポツリと食ってくる。 そんな中、波が強いせいか、仕掛けが艫の方へ流されてしまい、ついにスクリューに仕掛けが絡まってしまった。思い切りラインを引き絞り、到底私の腕力では切れないので(いくらネオプレーンの手袋をしていても危険である)庖丁で切断した。

 その後は船長の勧めでオオドモから仕掛けを流す。これなら一向に絡まらない。船長は電動シャクリからミヤマエのでかい電動リールでパラシュートだ。餌とコマセは先ほどのムロのぶつ切り。

 沈めてしゃくったかと思うと、すぐさま20キロ級のキハダが掛かる。水面まで上げたあとは極太のハリスを手繰ってあっという間にギャフ入れだ。

「いやー、パラシュートって釣れますね! ――竿は何ポンドですか?」

「50ポンド。これくらい硬いほうがいい」

 ひええ! やっぱりハードなタックルだ。これを手巻きでやったら大変そうだな……。

 こちらも昨日ほど当たりは多くないが、それでも釣り方のコツを掴んできたようだ。キビナゴを1尾ずつ途切れないように撒きながら、その中に針に付けたやつを紛れ込ませ、魚をおびき出すのだ。

 電動シャクリの竿もオオドモに移動してもらい、キビナゴを3〜4尾くらい房掛けにするが(ヘミングウェイ『老人と海』でカジキの餌にイワシを針に半円形に付ける描写を思い出す)、大物はまだ当たってこない。

 その間に、撒き餌が効いたのかカツオが、シビが次々に竿を絞り込む。もはや完全に先手を打って巻き寄せるが、ハリスを掴んだ瞬間に走られると竿の力がありがたい。

 と、再び良型が食った! どんどんラインが伸びていこうとする。

 船長に言われたように、ドラグをかなり締めて戦ったが、そのテンションがいささか強すぎたらしく、何度目かの疾走で10号の先糸はサルカンごとぶった切られた。

 あちゃー、さすがにドラグを締めすぎたようだ。ややドラグ強度を下げて再開する。シビはポツポツ食って来るが、昨日ほどの入れ食いではない。

 それでもキビナゴを撒きながら続ける。大ドモから流せるので仕掛けをさばくのが楽だが、コマセが効き始めると連続でシビが食らいつき、時に本ガツオも混じる。相模湾ではカツオよりシビが有難かったが、今は逆の状況だ。小っさいキメジより本ガツオが欲しい。しかし、フカセ仕掛けに食い始める頃、船長のパラシュート仕掛けはパヤオに絡む恐れがあるためか船を立て直すため、またキビナゴを撒き直さなければならない。電動仕掛けもブイが近づいてきたら巻き上げなければ絡む恐れがあるし、フカセに食ってもオマツリ回避のため巻き上げる必要があるが、本当に電動だと楽だ。いくらトローリングリールもラインキャパがあるからって100メートル以上を毎回手巻きにはしたくないね……。

 もっとも、一時的に船を立て直しても、すぐ魚はキビナゴを見つけるから問題ない。むしろ、風が強いので仕掛けを送り込むのが楽だが、これが乗合で何人もお客さんがいたら船長は大変だろうなあ……。

 もはや、先糸まで来たら、後は手繰って仕掛けを打ち返していたが、風で後ろに流れるラインをいつでも引き出せるよう、ハンドルにラインを掛けて流していた。そうしないと一々竿をロッドホルダーから外さなければ仕掛けを流せないのだ。いくら尻手ロープで竿を繋いでいるからといって、ホルダーから竿を外したくはない。

 と、再び当たりが来た。物凄い勢いでラインが曳き出されていく。大慌てでハンドルに掛けたラインを放すと魚はさらに突っ走った。

「おっしゃあ! 10キロ級が来た!」

 魚はミヨシの方向へ向かって走る。私としてもそのほうが都合が良いため、ラインが船べりに擦れないよう用心しながら移動する。この竿はリールから竿尻までのリアグリップが短いため力が入りやすく、スタンディングに最高だ。

 やはりこのサイズだと、大枚をはたいてワンピースロッドにトローリングリールまで用意した価値がある。相模湾で使ったときはこの竿のポテンシャルを理解できなかったが、平均が5キロ以下の相模湾ではGOUINでもいけそうだ。なんたって20キロのモロコをこのGOUMANで獲った人もいるのだから。

 そんなことを考えている間にも獲物は激しく抵抗し、とんでもないスピードでリールからラインが引き出されていくが、もはや私は慌てなかった。サイズはまず10キロ級だろうし、その力はどれほどのものか、昨日と今日でほぼ把握した。ラインキャパは300メートルでも充分上がるだろう。おっかなびっくりし過ぎるといつまでも引きずり回されるが、タックルとハリスの強度を計算し、先手を掴んで戦えばかならず浮かせられる相手だ。

 そんなことをいっても強烈な引きに変わりはない。慎重にミヨシを回り、取り込み口まで回ってスタンディングファイトを続ける。下に潜ろうとする魚の引きをじわじわと引き寄せ、ついに水面直下に銀と黄色に光るキハダが旋回しながら姿を現した。
 船長がギャフを打ち込み、さらに神経抜きまでしてもらった後、私は急いで庖丁を使い、エラを抉り取り、腹を切り裂いて内臓を抜く。胃袋は切り開くと内容物を捨て、ホースの海水で洗い流す。


 死後硬直していないせいか、庖丁が鋭いせいか、やってみると意外と楽だ。続いて朝一に仕留めた10キロ級も内臓を抜いた。

 その後も船長のパラシュートは落すたびに当たりがあり、キハダのみならず20kg級のビンナガまで上がってくる。同じような棚を電動にキビナゴで攻めても無反応だが、こうなったら次は必ずパラもやらせてもらおう。

 そんなことを考えつつ、シビを釣り溜めていくうちに正午を回り、1時を過ぎた。もはや道具の特性も完全につかみ、レバードラグを調整しながら仕掛けを流していくと、再び強烈な手応えが来た。

 しかし、これも最初のスピードこそ良かったが、上げてみると4キロないようなサイズ。そんなことが二回ほどあったが、この中に10キロ級もいるのは確実なので、フカセで地道に釣り続ける。

 電動で垂らした仕掛けには当たる気配がないから、フカセ一本でも大丈夫だろう。

そんなことを思いながらもシビを、カツオを釣っては血抜きする。

 このサイズと遊ぶならスピニングタックルでもやれるだろうが、まだ電動を片付けていないし、もし大型が食ったら上げるのに相当時間を食いそうだ。

 などと思いながらも、針に刺したキビナゴを海に放り込み、同調させるようにキビナゴを(形を見て付け餌と撒き餌に分別)バラバラ撒き続けるうち、ついに最後の良型が食った。

 一気にラインが走り、レバードラグをファイティング値にセットするとますます勢いを増して魚は突っ走った。いきなり下に潜るのではなく、少し横走りしてからダイヴィングするのがキハダの特徴のようだが、ラインの出が何故か悪い。
 よく見るとトップガイドの下で、ラインがブランクを一巻きしている。このまま戦ったらラインが傷むか、最悪ブランクが破損する恐れもあるため、テンションを保ちつつ、ドラグを緩め、素早くねじれたラインをトップガイドにくぐらせた。
 これで心おきなくファイトできる!

 走りたいだけ走らせ、止まったところでポンピングを繰り返す。6:4調子のGOUMANが魚を寄せてくるのはいつ見ても見事だ。魚を不要に暴れされることはない。
 最近の竿は恐ろしいと感じつつ、絶対に獲れると確信した。こやつも10キロ級だろうが、水面下30メートル程度のタナでの「膠着状態」もじわじわとプレッシャーを掛け、またもや船を半周して取り込み口付近まで到達すると、落ち着いてリフティングに入った。ラインが少しずつ孤を描き、リールのスプールが太くなっていくにつれて、水面下で輝く魚体が浮いてきた。
 最後の抵抗をかわし、ギャフを打ってもらうや、船長に写真を撮ってもらい、神経抜きをしてもらった後、腹を裂いて鰓も切り取る。それらは海にドボンだが、胃袋だけは切り開いて中身を確認し、洗い流してクーラー行きだ。 

 かくして、外道の種類は少なかったが、何とか10キロ級を3本仕留め、二日間にわたるパヤオでの釣りは終了した。
 帰港後は並べて撮影(何でも新聞に送るらしい。それにしても10キロ級3本、3キロ前後が9本にカツオ3本、他にシイラって…)し、それが終わるや獲物を大急ぎで送り、船長の家の庭で巨大なシャコガイの殻を見せてもらい、港近くの店で夕食をご馳走になった。

 
メニューはシイラのムニエル、煮付け、カツオとキハダの刺身、キハダの酢味噌和え(大根の千切りと胡瓜を使う)、キハダの胃袋の炒め物だったが、ついつい刺身より胃袋に手が伸びてしまう。匂いを消すために韮や大蒜を使うといいらしい。

 そして、船長以外にも知り合いのお二人とご一緒したが、某さんは相模湾でマダイ船に乗ったとか、サバを他の釣り人が捨てるのを見て驚いたとか。

 また、やはり船長の知り合いの漁師さんは―TVチャンピオン関係で、クロマグロ釣り選手権にも話が及んだが、餌のイナダをヤマトナガイユ(ツムブリ)と思っていたところが沖縄らしい。確かにカンパチはいても、ワラサやブリが上がったって聞かないよなあ…。―彼も数年前、200キロ級のクロマグロを手釣りで掛け、獲るまで8時間格闘したとか!

 その後も魚の話は尽きることがなかったが、さすがに最終便の時間も近づいてきたので、名残惜しさを残しつつ、最後に店の人に「沖縄のさかな」というポスターを頂いて空港に向かった。

 夢心地のなか、羽田に私は戻り、ようやくTVチャンピオンの旅が終わったことを実感したが、最高の漁に加え、かねてからの夢だったパヤオのキハダを思う存分楽しめたのは信じられないような出来事としか言いようがない。
















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