番外編・沖縄遠征2009年


 とある理由で時間が空き、3年ぶりの沖縄遠征を思い立った。
 昨年は相模湾にも大型のキハダが回遊し、間違いなく20kg以上ある魚を4発掛けたものの、鮫に食われたり、ハリスが飛んだりして全て失い、かろうじて13キロをランディングしたのみにとどまっていた。
 そのため、今回は絶対に大物を仕留めるべく、沖縄のマンモス漁具さんに、大型マグロを仕留めるためには必須の「パラシュート仕掛け」はあるか問い合わせたら、「完成された仕掛けはないが、パラシュートとオモリはあるので、来店したときに仕掛けの作り方を教えます」と、頼もしい回答が戻ってきた。
  船の方も、3年前にお世話になった豊見城市・与根の(エビング発祥の地です)大将丸さんに3日連続で予約の電話を入れたところ、大きいのも一日で数本くらいは上がり、釣りたかったメバチも、3キロから6キロのものがポツポツ上がっているという。

 また、今度は沖縄の県魚・タカサゴ(現地名はグルクン、以下グルクンと呼ぶ)も、一度は釣ってみたいと思っていたので、グルクンの船も予約を入れた。

 このグルクン釣りでは、サビキでグルクンを釣る傍ら、オキアミやキビナゴをコマセ&付け餌にしてタマン(ハマフエフキ)、ヤマトナガイユ(ツムブリ)、ガーラ(ヒラアジ類全般)、カチュー(スマガツオ)などを狙うフカセ釣りも盛んに行われているが、こちらも確認したところ、ルアータックルの流用も可能と言うことで(ご当地では磯竿と大型スピニングリールの使用が一般的)、楽しみが一つ増えた。


 また、パヤオゲームではフライも試してみたかったが、フライロッドは、前回のカツオでスネークガイドが折れていたため、修理に予想以上に時間を食うため、残念ながら持って行くのは諦めた。
 もっとも、その代わりにメタルジグやペンシルなどを買い、相模湾でも使っていたルアー、これまで実績のあるルアーを詰めたルアーケースは、もはや妄想の固まりと化していた……。


 
 5月13日


  早朝の便に乗るため、久々に朝の五時に起床し、これまで組み立てた荷物を持ち、羽田までバスで向かう。
 さすがに車内に釣り竿を持ち込む痴れ者は私くらいだが……。

 羽田空港では、荷物を預ける際に、空気ボンベを仕込んであるライフジャケットと、PEライン用、レインウェア用のスプレーは検分頂いたが、無事に搭乗し、上空に出ると、窓ガラス越しに太陽の暖かさが伝わってくる。 

 あっと言う間に、四国・九州の・奄美の上空を通過し、那覇空港に近づいてくると、お約束のブルーウォーターが広がる海と、その上を走る船が見えてくる。

 やがて、浅瀬を見下ろしながら、私を乗せたJAL機は沖縄の地へ降りた。
 早速、荷物を受け取るや、沖縄唯一のモノレール、「ゆいレール」で今回の宿まで向かった。県庁前からすぐの所にある宿だが、一度、重い荷物を持って通り過ぎたのは苦笑。


 で、チェックインしたが、宿はキャビン形式であるため、ロッドの束と、リールやパヤオ用のルアーを詰めたバッカンをフロントに預かってもらう。 ちなみに、追加料金一日900円で、個室へも変更可能というが、しばらく回答を留保する。
 まずは、専修大学時代の友人、東君を訪ねるため、小禄駅の大型ショッピングセンター内のベーカリーを訪ねることにした。
 と、その前に目を通した鮮魚コーナーには、県外の魚も多く並んでいるが(牧志公設市場=観光地ですぞ)、沖縄県内の魚はビンチョウとキハダ、キメジ、島魚としてはハマフエフキ、ハマダイ、ヒメダイ、ハタ類の刺身用サクがあり、丸ごとのグルクンも!
 ベーカリーでは、パンに卵黄を塗っては焼き機に収めている東君を見つけ、仕事の邪魔にならぬよう気遣いつつ、しばし歓談する。沖縄最初の食事は、ここのクロワッサンやかぼちゃパンにアイスコーヒーと相成った。
 そして、前回泊まった宿を横目に見つつ、「マンモス小禄店」へ足を運び、店員さんに沖縄独自のパラシュート仕掛けについて相談すると、パラシュートは胴突き式2本針と、1本針の二種があると言うが、1本針の仕掛けに決めていたのでその旨を伝える。
 パラシュートはおよそ500円、セットするボールベアリングスイベル付きの200号オモリは1350円だが、念のため二組購入する。
 肝心のハリスは、通常30号から60号だというが、私のタックル――深田家でクロマグロが釣れ盛っていた頃を想定したもの――は以下の通りだ。

 
竿:ダイワ・リーディングXゴウマン240H(適合ハリス30号まで)
 リール:ペン・インターナショナル16S Uスピード(ナイロン16lbなら1000m入る)
 PEライン:ダイワ・棚センサーブライト8号(80lbクラス) 400m強


 このタックルスペックを申告すると、ハリスは持ってきたフロロ26号が良いだろうとのこと。フロロの方がパラシュートでも扱いやすいとか。ハリスの長さは10mほどで、針はタマン用やスーパームツやモロコ(クエ)用やら何やらあるが、今回はキビナゴでも付けられるよう、管付きムロアジの22号を選んだ。相模湾の活きイワシ餌フカセでは絶対に使わない大きさだ!

 最近はボールベアリング入りの、ハリスを巻き付ける板が沖縄では使われているが、その板は船長によって違うので、今回は昔ながらに、ハリスを八の字に巻いてパラシュートに収めることにした。
 また、PE8号には、同じ引っ張り強度のよつあみ・ウルトラダイニーマの6号を継ぎ足そうかと思ったが、どうしても細い分、結節強度が落ちるそうなので、継ぎ足しは見送り。そうそう、パラシュートは口を針金で結び、しゃくると針金が解けて、マグロの棚で付け餌とコマセが一気に放出される仕組みなので、結ぶ針金もサービスしてもらった。
 そして、フカセのハリスと針についても確認すると、ハリスが細いほど食いはよいが、地元の人は基本的に太仕掛けだという。沖縄本島のパヤオでも、時に70kgが食うこともあるというから、細すぎるハリスでは役に立たないのだ。前回は12号を使ったが、今回は16号が良いのではないか、とのこと。こちらの針は極太タマンをセレクトした。
 さらに、出船しない日は陸っぱりでパシフィックターポンを狙いたいと告げると、ルアーは小さなワームやミノー、メバルを狙うような小さいやつほど良いそうだ。釣り場は夜、明かりがある周りに寄ってくるので、ゆいレール近くの国場川で良いそうだ。
 この魚はスレやすく、ターポンだけあって、口が堅くてフッキングが難しいというので、PEラインの使用はベストだと思うが、さらにスプールを押さえてフックアップしよう。
 また、ガーラことトレバリー(ヒラアジ)類は、狙いたい1kg以上の魚は朝夕が狙い時で、河口に集まるボラを食べに来るので、水の濁った那覇市内の方が条件がよいそうだ。こりゃ東京湾のシーバス状態だな。
 ちなみに本島中部や北部はハタ類(以下ミーバイ)やフエフキダイ類が多く、そちらではガーラは沖に出た方が良く釣れるとか。
 那覇市内でのガーラポイントは、与根漁港近くの瀬長島周辺を中心に、河口部で実績があり、マンモス丸の乗船場、三重城港でもルアーでGTの30kg級が出たとか!
 私は宿に戻ると(フロントにいたお兄さんは、佐島出身だとか!)、3年前にも立ち寄った久茂地図書館で読書し、夕食を早めに食べて、日が落ち始めたら、ルアータックルを持って出ようと考える。
 宿の前の久茂地川ではトビハゼが当たり前に跳ね、そこいらじゅうに15〜20cm強のボラが見えるので、本気でGTを狙うなら、パヤオ用に持ってきたルアーも必要だ。いっそ、マグロ用に持ってきたコーラルスターとソルティガを持ち出すか?
 ショックリーダーはシーバス用なら8号か? 10号か? マグロ用ならば最低でも16号、できれば20号を結ばないと根ずれで切断されそうだ。

 結局、久茂地図書館では水産関係、遊漁関係の資料に目を通したが、やたらと疲れてきたので、宿のベッドで横になるも、興奮が続いているせいか、殆ど眠れない。
 そこで、シーバスタックルを持ち出し、トレバリー&ターポン狙いに出たが、国場川では餌釣りでコトヒキが上がっていたものの、ボラの群れにジャイアントDOG-X・SWを打ち込んでも反応はなく、川を下りつつ三重城近くのシャローではK-TENを根掛かりで失い、その後は再び国場川を遡り、光が当たっている漫湖公園の最下部を攻めるも、ルアーにボラらしきものが数回、当たった程度で終わった。
 しかし、地元の人の話では、ガーラが出てもおかしくない時期だというので、やはり私の方に問題があるのだろう。
 敗北を引きずりつつ宿へ引き返すも、何故か食欲が出ない。緊張と疲れが出てきたようだ。宿近くのコンビニでも沖縄の釣り場ガイドや釣り雑誌に食指が動くが、サラダと枇杷のゼリーだけを買って食す。
 少し体調が回復してきたので、この釣り師は明日について計画を練り直す。
 今日の状況から、明日、絶対に釣りたきゃ、レンタカーを利用しないと見込み薄だが、体調が持つか? 今日は予定していた金額から2,000円浮かせたが、もし部屋を個室に変更したら、1,600円足が出てしまうからねえ……。
 などと、とりとめのないことを、シャワー待ちの間に、私はノートへペンを走らせる。
  
 もし、明後日にグルクン船が出なければ(船は予約制乗合だが、お客が一人なら出ない)、全ての魚が外来魚だという南風原ダムと、陸っぱりは当然やれる。しかし、出船するとしたら、陸っぱりのチャンスは明日しかない。
 起きて、体調が良ければやってみるか。



 5月14日


 結局、無事に起きられたので、朝食を頂くと、レンタカーの営業所に空いている車はないか問い合わせたら、車は確保できるというので、タックルと荷物を持って小禄駅近くの、ダイドーレンタリースに向かった。
 手続きを終え、再びマンモス小禄店で餌になりそうな冷凍エビやチヌ針などを仕込み、カーナビの案内で南風原ダムへ向かったが、宿の前もルートだ! 何と面倒なことをしたのだろう……。(かくして、帰りは宿に荷物を置いてから向かおうと決意)
 時期がらか、国際通りには修学旅行生が大挙して押しかけ、大型バスも停まり、何とも賑やかな様相を醸し出すが、私も沖縄に初めて訪れたのはちょうど十年前、16歳の高校2年の頃だった……。 
 その時もパックロッドを持ち込んで、ダツやシロダイ、オジサンやヨスジフエダイを釣ったんだけどね。
 首里城周辺も制服姿の少年少女のラッシュ状態! いやはや、懐かしい。この中の連中も、沖縄リピーターになって欲しいものですな。
  さらに走ると、山林が見え始め、間もなく南風原ダムへ到着した。思ったより小規模なダムで、農業用水に使われているようだが、湖のあちこちで無数の魚が跳ねている! しかも35cm以上はありそうな魚が多い!

 あっと言う間にアドレナリンが急上昇するが、車を停められるところが少なく、ダムの周囲を2〜3周したが、周囲は立ち入り禁止に指定され、ダムサイトの階段状になっているところが見えるので、一縷の期待を託すが、ここも普段は立ち入り禁止だったので、涙を飲んで諦める。

 以前、日本魚類学会が琉球大学の構内の池と、この南風原ダムで外来魚の魚類調査をしたということだが、その時は役場に立ち入り許可を取っていたんだな……。

 で、他には大城ダムが近くにあるというので、即座に向かったが、こちらもダムゆえに駐車場所確保に時間がかかるうえ、「ハブに注意」という立て看板まであったため、淡水の釣りは見切る。

 沖縄での堤防釣り場ガイドを早朝に買ったので、この後は糸満漁港を探り、瀬長島で今日の釣りを終える計画だ。
 しばし、南部周辺のドライブを楽しみ、ひめゆりの塔などの戦跡も車窓より眺め、昼時を過ぎて糸満に到着した。まずは地元の「うまんちゅ市場」で弁当を確保し、釣具店で状況を聞くと、島ミミズ(要はイソメですな)を使った打ち込み釣り、(関東で言う天秤を使ったチョイ投げ)で、ホシギスやガーラを狙うのが一番可能性が高いとか。
  そこで、漁港の片隅に車を停め、陸揚げされているパヤオと、いくつかの職漁船(九州から来ている船もありました)を眺め、黒鯛らしき25cm大の魚が走ったのも確認し、冷凍エビを撒いたが浮いてこない。

 カマスか? と思ったら、何と400gほどのアオリイカ! この時期の沖縄はエギングのシーズンオフということで、エギを持ってこなかったことを激しく後悔する。
 で、こちらでは数回投げたものの当たりはなく、氷を用意してこなかったため、餌が腐るのを恐れて、撤退を決意した。

 風裏になっている場所ではオヤビッチャなどが見えるが、冷凍エビにウミタナゴ用の針でも乗らないので、ここも見切り、瀬長島を目指した。

 もっとも、その前に河口部が見えてきたので、試しに打ち込み釣りをしようと立ち寄る。



 場所を少し変えると、強烈な当たりを見せたのは、20cm手前くらいのホシミゾイサキだった。イシモチ類にも似たルックスだが、初めての魚なので、記念写真を撮ってリリース。

 ボラもいっぱいいたので、もしや周囲にGTでもいないかとルアーを投げまくったが、こちらは反応なし。
 ただ、地元のおばあと30分近く立ち話をし、自慢のお孫さんの話や、沖縄の生活について話を聞けたのも今となっては貴重な体験だ。
 次第に風も涼しさを増してきた。
 車は糸満から豊見城市へ入り、来週から出漁する与根漁港近くを通過し、いざ、瀬長島へ入ろうとするも、一度は道を間違え、高架の道を通る羽目になってしまった、観光コースでもある沖縄アウトレットモールを横目に通り過ぎ、正確に道を辿ると、ちょうど江ノ島のように、本土と島をつなげる道路が目に飛び込んできた。
 左手に河口、右手に島と本土間を流れる水路を見つつ、車は瀬長島に到着した。とりあえず一周し、裏側のリーフにバスタックルと餌を持って降り立った。タイドプールには小型のハゼが泳ぎ、イソメの端を咥えたまま上がってきたが、写真撮影してリリース。和名は何だ?
 イソメがなくなったので、冷凍エビを投げるも、何度か頭だけ取られて終わる。
  しかし、後ろのタイドプールにはイラブー(エラブウミヘビ)が! よく牧志公設市場で燻製にされているやつだが、そやつが今、小魚を狙って頭を海底にこすってはうねうね蠢く。ウミヘビは神経毒なので、噛まれてもハブほどの痛みはないそうだが、致命傷になる可能性が高いので緊張を隠せない。長靴を履いていて良かった……。

 と、その爬虫類をバスロッドの穂先で突っつくと、大慌てで遁走していくのが微笑ましい。他にも大きなナマコやモジャモジャのカニ、茹でたように真っ赤なシャコなども沖縄ならではの生き物だ。さらにシャコ貝の貝殻も発見する。

 そこで、ボラの群れが何かに追われたようだったので、急いで車に戻り、シーバスタックルを持ち出してペンシルを投げまくるも、反応はない。

 2時間近く粘るが、小さいジグで足下を探ってもだめで、おまけにそのジグとPE1号を50m以上根掛かりで失ったため、時間も遅くなってきたことを機に、撤退を決める。


 と、そこでグルクン乗合を予約した船から電話が来たが、明日は人数が集まらず、出船しないということなので、善後策を考えつつも、宿に荷物を置き、レンタカーを返却する。
 今日は陸っぱりが不発だったので、すっかり沖釣り師になった(単に陸っぱりが下手になっただけだったりして……)私は、その足でマンモス小禄店に戻り、明日出る乗合船(魚種は問わず)はないかと当たってみると、那覇沿岸漁港の「太公望」さんが午後からグルクン船を出すというので、そちらに決定する。
 糸満のジギング船は、明日は仕立てで出られず、他の船は私一人だとグルクン一日で船代、貸し道具や箱込みで21,000円すると言うからこれは遠慮するしかない!
 さすがに今日は食欲が戻ってきたため、国際通り周辺を探すが、結局はコンビニでタコライス巻きとちゃんぷるー弁当で間に合わせる。明日こそはグルクン釣りだ。



 5月15日


 本日は午後出船のため、余裕を持ってゆいレール、古島駅から歩いて沿岸漁港まで向かったが、漁港に注ぐ安謝川でようやくテラピアの群れに遭遇した。小さいので15cm、大きいのは40cmはあるが、まるで関東の川のコイのように、川底の餌や、水面の流下物を食っているので、パンを付ければすぐ掛かるだろうが、フライがあれば実に楽しそう。
 しかし、タックルと荷物を持って、2km以上歩くのはごめんだ! 何度となくタクシーを停めようと考えたくらいだが、安謝川河口は一流のガーラポイントだというので、スズメダイが泳ぎ、あちこちに小型のボラがライズする状況を観察する。関東ならベイエリアのシーバスのポイントだが、沖縄ではGTが回遊するのだ!
 もう少し先に行くと、バス停があるのも確認し、帰りの足にはなると判断する。
 そして何とか那覇沿岸漁港に到達し、まずは道具を太公望の店内に置かせてもらい、
(庄三郎丸や征海丸、一ノ瀬丸などのステッカーが所狭しと貼ってあり、店の天井には磯マグロやホシカイワリ、ツムブリなどの魚拓が目を楽しませる)食堂で沖縄そばを食す。紅生姜とコーレグース(島唐辛子の泡盛漬け)をかけるとまた格別だ。
 漁協内の食堂には縞ダコや貝類の刺身など、釣るのはちょっと難しい海産物の料理があるも、今回は見送る。
  そして出船に備えるも、魚を入れる箱も当然必要で、フカセの餌にキビナゴやオキアミも購入したので、一日船と同じくらいの予算が飛んでしまった……。

 さらに、スマガツオがいることもあるというので、JGFAの記録狙いに2lbラインを巻いて出船するが、やはり内地の旅行者・釣り初心者も同船しているので、私ものんびりしてはいられない。

 たちまち那覇一文字堤防群を左手に見ながら沖に出るが、うちなー地元組も内地組も、レインウェアを着ている人はいないので、私もウェアを着るのは次の機会に持ち越す。何せ、今日はやたらと暑い! あちこちに日焼け止めを塗りたくり、貸し道具を見ると、柔らかめで短い竿に、両軸リールの組み合わせだから、シーバスのジギングタックルも流用できそうな感じだ。

 30分ほど走ると、小さな島も見えてきて、通称「チービシ沖」と呼ばれるグルクン場に到達した。
 ここの船はアンカリングをするため、上乗りのお兄さんがアンカーを打ち込む。ロープがどんどん伸びていくが、思ったよりも水深は浅いようだ。
 釣り初心者の方も、海の青さに感動しているが、こちらのサビキ仕掛けは6本針でも1mあるかないかの短さで、仕掛けの一番下にコマセカゴとオモリを付けるので、非常に扱いやすい仕掛けと言えるだろう。
 コマセを入れる桶も長方形なのが興味深い。地域による違いか?
 
 で、30mほどの水深でコマセを振ると、早速小さな当たりが来た。期待しながら巻き上げると、尾柄部が白い、アマミスズメダイだった。

 次もスズメダイで、続いてはヤッコの類か? と思わされたが、これは良型ベラの一荷、小さい方がスミツキベラで、大きい方はブダイベラだ。一緒に掛かって来ると、雄雌のペアーと間違えそうだ。

 その後から、船中でポツポツとグルクンが食い始めた。コツはコマセが一番下なので、しゃくってもリールを巻くことなく、再び落とし込むことで、コマセとサビキが同調すると船長は言う。
 私にも先ほどまでとは違う、鋭い当たりが来たので、テンションを緩めることなく巻き上げると、30cmには及ばないが、よく太ったグルクンが上がった。まるでワカシのようだ。

 初心者の方も魚の顔を見始めたが、うちなー地元組の方は、最初からフカセの仕掛けを流している方も……。
 何尾か釣った後、次第に反応が悪くなってきたようだが、船長は次々に食わせ、他のお客さんもポツリポツリと魚を上げている。

 次第に私も、自分なりの誘い方が分かってきたようだ。それは、コマセを振った後も、穂先がほんの数センチだけ動くようにバケを踊らせることで、魚に仕掛けがアピールし、当たり自体も伝わりやすくなっているようだ。

 この時期はグルクンの産卵期なので、食いが渋いという話もあるが、確かに当たっても乗らなかったり、バレることもしばしばあった。この釣りは思わずのめり込む魅力がある。

 その合間に何度かフカセの仕掛けを流したが、地元勢にも当たりはなかった。
 一度、船を立て直してから再び仕掛けを入れると、地元勢にはヨスジフエダイ(ビタロー)が掛かり、鮮やかな黄色が眩しく映える。小さいが美味しい魚だという。
 と、船の真後ろでいきなり物凄い早さの水飛沫が上がった。
「カツオだ!」
 船長が叫び、私もあわよくば日本記録を狙おうかと2lbラインでオキアミを流すが、当たりはなく、船中誰一人、この群れを手に入れることは叶わなかった。
 

一方、グルクンには外道で小さなオジサンが混じったり、やや小型で、青みを帯びたクマザサハナムロも混じるから退屈しない。グルクン釣りを開始した当初は、貧果だったら獲物は自分で食べてしまおうと考えたが、もしツ抜け(10尾以上釣ること)したら実家に送り、沖縄の県魚を味わってもらうしかない!

 そう考えながらも、途中で仕掛けの真ん中にコマセカゴを付け、2本の仕掛けで流していたが、いきなり仕掛けごと持って行かれ、もう一組仕掛けを購入し、さらに数を伸ばしていく内に、ついに地元勢のフカセに当たりがあった。

 長い磯竿でポンピングしながら寄せてきたのは、2キロ半ほどのアオチビキ(オオマチ)だったが、やはり良型の魚を見るのは嬉しい。その前にも小さいオオマチを釣った人はいたが……。
 と、私に小さなクマザサハナムロが来たので、それを餌にして泳がせてみたが、当たりはない。今となってみれば、オジサンを餌にした方が底に潜ってミーバイ類にアピールしたかも……。
 やがてコマセはなくなり、コマセのお裾分けを頂いてもう1、2尾追加したところで本日の釣りは終わった。
 地元勢の皆さんは船上で魚を処理し、初心者の方は調布の当たりからお越しと言うことで驚く、彼らは釣果をどこかで料理してもらうそうだ。
  私は魚をそのまま送ろうかと考えていたが、グルクン11尾ならばと思い立ち、鱗を落とし、ハラワタと鰓の処理も無事に済ませることができた。捌きやすい魚ですね。

 やがてエンジン音が緩み、まだまだ明るさを残したまま、私たちは港に戻った。
 簡単に道具を洗い、追加で氷を購入するも、現場では発送ができなかったため、そのまま宿に持ち帰ることとなった。荷物に魚を持つこととなると、恐ろしく重く感じ、何度も折れそうになる心にムチ打って、バス停まで向かう。

 安謝前のバス停から、あっと言う間に宿の近くの若松入口へ着いてしまい、午前中の苦労が実に馬鹿らしく感じてしまうほどだ。

 宿に獲物の発送について相談した結果、魚はそのまま宿の冷凍庫で凍らせ、明日の朝に冷凍便で送ることになった。これが観光客の釣りでやることか? 何はともあれ、佐島出身の宿のお兄さんに感謝。

 シャワーを浴びて、二日分の衣服をランドリーサービスでお願いし、久茂地の店でようやく沖縄料理にチャレンジすることとなった。(3年前、沖縄入りしたときの夕食を頂いた店です)
 アーサ汁定食と、かねてから興味があったミミガーを注文し、最初に運ばれてきたミミガーを頂くが、ゴマだれがやや甘すぎるように感じられた。私は違うたれで食べたいね。アーサ汁はようするに関東のアオサだろうけど、実に爽やかで、素敵な吸い物だ。ゴマだれの甘さを中和する感じで、疲れ果てた胃の腑にも、優しく染み通る。
 明日はいよいよ、沖縄の知り合いのお嬢さんたちと美ら海の予定だ。



 5月16日


  朝方、グルクン発送の手続きを終わらせ(ちゃんと何を送るか伝えておかないと、タックルを送り返されるという悲劇になりかねない!)、ゆいレールでは片道切符を買って、待ち合わせ場所の首里駅へ向かった。

 しばらくして、ここしばらくは、メールのやり取りに終始していたA嬢と3年ぶりの再会と相成ったが、彼女もすっかり大人らしさを見せる、素晴らしいレディになっていた。

 彼女の車で少し走り、若手研修医・H師と合流し、何故か有毒魚の話などを始めてしまい、A嬢に呆れられそうになるも、北谷へ向かい、そこで残り二人のお嬢さんたちと合流し、車2台で一路、名護へ向かった。

 途中の河口や海岸線も実に美しく、ライズらしきものも見えて、陸っぱりには最高そうだ。一昨日は場所が悪かったんだな……。もし出船できなかったり、次に来る機会があったら、ぜひこちらを攻めよう。

 A嬢も、私も釣り竿を持ってこなかったことを後悔したほどだが、学生時代ならいざ知らず、今回は沖縄の皆さんと交流するのが目的だ。釣りはまたの機会にしましょう。


 昼食はハンバーガーの店に入ったが、沖縄は政治的な理由から? 
 ファーストフードの普及が一番早く、高齢者の方も抵抗がないとか。しかし、それが平均寿命を下げる原因になっているというから、何とも複雑な気分になる。沖縄は素晴らしい観光地だが、そこに住む人々はまた大きな問題と直面しているのだ。

 さらに走り、いよいよ3年ぶりの美ら海水族館に入った。今回はあまりゆっくり見るわけには行かなかったが、それでも水槽の魚たちに感動し、新しく入ったイタチザメに驚き、館内のパンフレットを頂き、記念撮影と忙しい。
 館内の売店には、美ら海水族館のガイドブックもあったので、迷わず購入する。
 マナティ館では、平和に漂うマナティ君と面会し、ジュゴンとマナティの比較展示を面白がり、さらにはステラー海牛の頭骨まで展示されていたので、これは見逃せない。現存のジュゴンの倍以上はある。

 まだまだ見所は多いが、この後は名護パイナップルパークに寄ろうと言うことで、名残を惜しみつつも、美ら海水族館を後にした。
 3年前と同じく、夕日が差す中、美しい景色を見せる本部の山道を通り、名護パイナップルパークでは売店に入れてもらって、果物類と豚肉のお土産を送り、夕食は沖縄市内のカフェで頂くこととなったが、店は元々、米軍関係者が住んでいたのか、靴を履いたまま上がれる瀟洒な店だ。料理も結構。

 スズキのソテーを頼んだ子もいたねえ。養殖のタイリクか? 天然のマルスズキか?
 食事が終わると、ここでメンバー5人は各自解散となったが、私は宿の前まで送って頂き恐縮。
 あっと言う間に12時間が過ぎたが、実に充実した一日であった。



 5月17日


 今日は宿替えのため、いつでも移動できるよう、朝から荷物を軽く片付け、新しい宿に「朝から荷物を預けても大丈夫か」と問い合わせると、OKが出たので、2度に分けて荷物を持っていき(移動距離は600mたらず!)、その際にチェックアウト。 
 一日早い退宿となったが、1日分の宿泊料金の半額がキャッシュバックとなった。

 そして、明日から三日連続でお世話になる与根漁港の大将丸に電話で状況を確認すると、素晴らしい内容が帰ってきた。
 最初、18〜20の三日間の内、19日のみは乗合のお客があるので、乗合料金で出せるが、後の二日はお客がなければ仕立て扱いになるのが避けられず、私もそれに合わせて予算を組んでいたが、18、20もお客さんが入り、特に18日は前半にパヤオをやり、後半はカンパチを狙う予定だとか! ちなみに三日とも出船は6時だ。

 久茂地川でもようやくテラピアの姿を確認するが、バカな真似をする時間はない。
 新しい宿でチェックイン手続きを行い、荷物を部屋まで運んでもらうと、しばし一休み。4日間、遊びまくっていたのだから、そりゃ疲れるよなぁ……。
 しかも、日を追うごとに予定が詰まっていくような気がする!

 夕方から、首里駅で昨日に続いてA嬢と合流する前に、カンパチに使うルアーを買っておこうと再びマンモス小禄店に向かうが、その前にメモリーカードを購入し、大将丸船長に改めて確認すると、ジグは200gのブルー系、釣れるカンパチのサイズは5kg〜10kgオーバーだという。外道でミーバイも来るとか。

 ちなみにパヤオの方では、ヒレナガカンパチの幼魚はまだ見えず、ビンチョウも期待薄とのことだが、キハダは入れ食いで、メバチも3キロから6キロが釣れているという。 
 そこで急いで店員さんにリクエストを伝え、200gのジグとアシストフックを購入し、慌てて首里行きの便に乗り込む。
 3年ぶりに会った面々とも再会を果たし、琉球大学の構内を車で案内してもらったが、実に敷地が広い。総合大学だけあって、文学部・法学部・教育学部から理学部や農学部などなど、実に豊富な学科だ。 
 構内には良さそうな池もあり(日本魚類学会の調査実績あり?!)、教育学部付属の小中学校や、農学部付属の温室やビニールハウスまで目に付く。こりゃ、専修大学・生田キャンパスの何倍の広さがあるんだ?!
 やがて、沖縄料理の店に到着し、私は皆さんの薦めで豚のもつを使った中味汁定食と、祝い事で供されるいなむどぅち定食の二品を食す。中味汁は長時間煮込んであるためか、味わいに深みがあり、繊細な旨みを味わう。椎茸もいい出汁が出ているようだ。いなむどぅちはやや濃厚な感じだが、野菜の味が感じられ、苦労しつつも二人前を完食する。
 皆さんは一人前でも十分すぎるようだったが、沖縄の食事はボリュームがあるからねえ。もう一品、ぜんざいを頂いたが、沖縄のそれはかき氷がかかり、黒糖を使っているのが嬉しい。
 食べながらも当然、お互いの近況報告や、関東の知り合いの話でも盛り上がるが、次第に別れの時が近づいてくるのが残念きわまりない。だが、本島に訪れて良かった。


 そして私は宿へ戻り、タクシーの手配をし、コンビニで必要な物を買い込み、明日に備える。
 メタルジグに自作のアシストフックを装着し、タックルボックスを整理し、ソルティガのラインを巻き替える。ジギングで深場も攻めるということでPE4号300mから3号400mへの巻き替えだが、予算があれば換えスプールが欲しいねえ。
 
 明日から今回のメインディッシュともいえる、パヤオゲームだ。



 5月18日


  ついにパヤオゲームの幕開け、4時45分にタクシーで出たが、15分ほどで与根漁港に着いたので、いささか早すぎたと反省。

 しかし、タックルセッティングで思わぬミスが発覚! 何とペンのトローリングリールを、上下逆に取り付けていたのだった……。
締め付ける工具も、宿に置いてきたままだったので、どうなるかと青ざめたが、まずは一円玉を持ち出すも、曲がりそうで役に立たない。次いで、タマンスペシャルを使ったアシストフックでやってみると、次第にねじが回り始めた。

 何とか5分少々で、無事にリールをセットし直し、スピニングタックルも何とか拵える頃に、地元のアングラーも港に車を停め、船長もやって来て、5人での出漁となった。

 2時間近く走ってパヤオに到達したが、地元のアングラーはソルティガのツナロッドにソルティガの6000番を組み合わせ、ポッパーで魚を次々に掛けている!
 今日は餌を用意する余裕がなかったため、一日中ルアーオンリーで通すことになりそうだ。果たしてどれだけ釣れるのか不安になるが、まずはドラドペンシルを結び、コーラルスターCGP-8016とソルティガ4500Hでパヤオめがけてフルキャストする。
 スローにアクションさせるといきなりガパッと出た! しかし乗らない。再び投げるが反応はなく、ShibukiやOZMA-HWをセレクトしてもイマイチな感じだ。
 海面には無数のカワハギ類(アミモンガラ)がいて、でかいのは30cm近いため、フカセでは釣りにならないだろう。すぐキビナゴを食われるに違いない。
 その間にも、他のアングラーは流行のエビングやジギングで、魚を次々に掛けているため、私もジグにチェンジすることにした。
 まだ釣ったことがない、110gのシーフラワーをぶん投げ、50mほど沈めてからジャークするとガッツンとロッドが絞られる。来たあっ!
 ごついシイラタックルだから、殆どドラグを滑らせることなく、2kgほどのキメジが浮上したが、釣れればやはり楽しい。特に、ルアーで初めてキハダを釣ったのだから!
 小さいならライトタックルで遊ぼうかとばかり、次はソルティガ・ドラド70Sにセルテート3500HDカスタム(ラインはPE1.5号)で、シーバスに実績のあるムーンウォーカーの60g(同じくブルー系)を投げ、ジャークして来ると一発で食った。しかし、合わせた瞬間にFGノット部が吹っ飛んだ!
 どうやらベベルジャーク(斜め引き)が有効らしいが、ラインシステムを組み直して挑むと、ブルー系のジグなら結構食いが良く、相模湾で鍛えたためか、地元アングラーと互角以上に戦えたとは思える。だが、いつ何時でかいのが来るか分からないので、ソルティガとコーラルスターの組み合わせに戻す。
 そのうち、シイラがアタックしてきて、水面でエメラルドグリーンの魚体がのたうった瞬間、20号のリーダーがブレークしたが、他にも近海仕事人の120gでツムブリがアタックし、続いては念願のメバチもキャッチ!

 やはり魚体の形が違うねえ。模様も、目の大きさも!
 船を立て直す合間に、ドラドペンシルを投げると、ジギングほど当たりは多くないが、
水面に激しくキメジが出る。トップゲームで釣ると面白さも格別だ。
 試しにドラドペンシル・ツナチューンを使うと、水平沈下している最中にガツン! 楽しくないはずがない! キャスティングゲームの練習にもいいかも?!

 時折、ライトタックルで投げると、物凄い楽な上、アベレージサイズの魚でも相当楽しめるが、以前ほど魚に翻弄されることはない。
 スキルジグでも次々にヒットする。

 水面にはアミモンガラとツムブリが沸いているが、釣ったキメジやメバチは即座に、船上で血抜きして内臓を取り除くので、その捨てられた内臓に群がる。
 ものは試しとばかり、ライトタックルのリーダーにチヌ針を結び、何本か釣ってみる。
 隣の人はキビナゴを持ち込んでいたため、他にもイスズミや50cmはある巨大なムロアジを釣っていた。
 しかし、あまり反応がよくないためか、船長は途中でパヤオを異動した。
 
 移動しても相変わらず、エビングでは順調にヒットしているが、私の実感ではメタルジグと大して効率は変わらない。まあ、小型の数釣りはもう十分だ。

 プラッキングでは、ドラドペンシルが圧倒的に有効だったが、ジギングではそれこそ、100g前後でブルー系なら何でもありという感じだ。
 セイカイコレクションのロングジグでも次々にヒットし、ロッドで抜き上げる。カツオも一本混じった。
 シイラも見えるが、ルアーには反応が無く、キメジの内臓を流しても、先にアミモンガラが食うので諦め、ジギングで入れ食いを味わう。相模湾では無理な相談だ!


 そのうちに、手巻きリールでエビングしていた人が、15kgはあるキハダを掛けた。激しいやり取りの末、茶褐色の魚体を水面に浮かせたが、リーダーが長いのかなかなかギャフを掛けられず、ついにフックオフしてしまった。残念ですね。
 何でも200m近いタナで食ったとか。
 その後もいい感じでお土産を確保し、昼にはアミモンガラの刺身を肝和えで頂き、2時頃からカンパチのポイントへ移動した。

 200gのジグに変え、250mの海底までジグを落とすのが一苦労。PEを3号に落としても、延々とラインが出て行くディープジギングは、シイラロッドじゃきついわ!
 それでもガンガンしゃくり、海底から50m以上上までジャークしては誘うが、当たりはない。インチクで誘っている地元アングラーも思わしくない状況だ。
 そんな中、移動中に右隣の地元アングラーから話を聞くと、以前から聞いていたトビイカを使った夜の大型マグロ狙いは、沖縄本島中部では、11月から2月にかけて出船し、皆さんミヤマエの大型電動リールで強引に巻き上げて取り込むと言うから凄まじい。 
 船によっては大間のクロマグロ漁でお馴染みの、電気ショッカーを積んでいる船もあるとか! 100kg級が食ったら電動でも上げるのに苦労するので、寄せたら感電させてしまうらしい!  
 実に恐ろしい話だが、ご本人もソルティガ4500番に堅めのジギングロッドで参戦し、ミヨシでしゃくると一投目でメバチの35kg級が来たそうだが、自力のファイトなので、上げるまで40分ほどかかり、その一本で体力が持たずに終了したとか!
 こりゃ、将来はマーリンも獲ることを目標としている私としては、タックルを揃えるのみならず、筋トレが欠かせない。何たって、カンパチ狙いのディープジギングだけで疲れるのだから!!
 その後も船長は船を立て直してチャレンジを繰り返すが、生憎誰にも当たりはなく、地元アングラーと(サンノリーの店員さんもいた)情報を交換しつつ、初日の釣りを終えた。
 今回は獲物を送るには、空港隣の営業所まで持って行く必要があったが……。
 まあ、ルアーでこれだけ釣れて満足。相模湾じゃ絶対に不可能なことだ。
 ちなみに、夕食は国際通りの店で、足てびちとアオダイのかぶと煮。



 5月19日


 
 出船前、港では小型の職漁船が、底延縄の獲物を水揚げしていたが、いい型のハマフエフキやコロダイが上がっていた。
 なお、獲物を買い付けに来ていたご婦人の話でも、この大将丸は最高レベルの船だという評判だった。

 今日はパラシュートで釣るため、朝方に船長は糸満漁協まで船を寄せた。
 まずは製氷機から数百キロの氷を、船の氷室に落としていくが、その間にパラシュート用の餌も購入する。コマセに使う20kg入りのフスマ、8kgほどある冷凍ムロアジ(箱からして中国船籍か?)、そして念のためにキビナゴも仕込んで、合計6000円也。
 結構な出費だが、ここまで来て餌代をケチるわけにはいかないし、相当な量があるので、明日まで使える可能性も高い!
 今日は小雨もぱらつく感じだが、むしろ日焼けの恐れが無く、餌や氷が長持ちするかも?
 船長に借りたでかいキーパーを船縁に取り付け、船室に置かせてもらったタックルを持ち出し、パラシュート用の道具にはビミニツイストのループをサルカン付きオモリに結び、ソルティガ&コーラルスターには20号のリーダーとセイカイコレクションのジグを結ぶ。
  私は昨日に引き続き、ミヨシ2番目だが、ミヨシの方は15年前からパヤオ専門の釣り師で、あまり大きい魚は捌くのが大変なので、小型を釣るのが捌きやすいし、人に配るのも楽だとか。贅沢な話だねえ。

 この方、測量の仕事を以前はしていたとかで、一度ハブに噛まれたが(「打たれる」という方がご当地では正確だ)、打たれた場所が手の甲だったので、あまり毒も入らずに済んだとか。さらに、イラブーを捕まえたはいいが、会社で逃げられ、1ヶ月後にようやく出てきたなんて話を聞き、昔は爬虫類好きだった私もワクワクもの。船上で他の釣り人の話を聞くのも沖釣りの楽しみの一つ。

 船は1時間半近く走り、前回15kgと水面で泣き別れたパヤオに到達した。今日は糸満のアリサUという遊漁船が職漁で出て、延縄を流している。ふと船を見ると、メーター半はあるシイラを獲っていた。

 本船では、他のお客さんは1000番クラスの電動リールに、ごつい船竿での電動エビングが主流なので、たちまち船の上ではモーター音が響き、竿をいっせいにジャークしては魚を掛けている。 
 次々にキメジやメバチが上がっていくが、今日は一日数度の当たりでいいので大物を狙うと割り切り、26号のフロロカーボンを6尋半ほど引き出し、がまかつ・管付きムロアジの22号を内掛け結びで結ぶ。
 冷凍されているムロアジの固まりから、力任せに何本か取り出し、まな板の上で4〜5等分に刻む。コマセに混ぜるため、キビナゴも駆り出す。
 船長がやり方を教えてくれたが、まずは針を結んでいる辺りを人差し指と中指の間に挟む。そして小指から親指にかけて八の字に巻いていくと早い! たちまちハリスが収納されるのだ。
 で、パラシュート釣りの仕掛けの扱い方だが、このような順番でパラシュートに、マグロへの陰謀を詰め込む。

@ 最初にハリスを八の字に巻く。
A パラシュートに水で練ったフスマを入れる。
B そのフスマの上に、巻いたハリスを乗せる。
C ハリスの上に、再びフスマを入れて、ハリスを押さえる。
D 針に餌を付ける。(管付きムロアジ22号も、ムロのぶつ切りだと決して大きいとは言えない)
E 付け餌とコマセ(ムロの頭や尾、他のぶつ切り、キビナゴ等をアレンジ)をパラシュートに入れる。
F パラシュートの口を、オモリのサルカンに結んである針金で巻く。

 結構手間がかかるが、大物に近づくためにはこれが一番。相模湾でも釣れるサイズの数釣りはいつでもできるのだから。
 そして、パラシュートを海中に投じると、予想以上に潮の抵抗を受けるのか、200号のオモリを使っていてもどんどんPEラインが流れていく。これよりオモリが軽かったらどうなることやら……。
 100m前後で反応が出ているということで、仕掛けが到達するや、レバードラグを締め、ラインスラックを取って思い切りしゃくると、しゃくった瞬間にパラシュートが開くのが判る。
 パラシュートが開いたら、ほんの2〜3分がチャンスだ。あっと言う間に穂先がグッグッと押さえ込まれるが、餌だけ取られることもしばしばあった。
 慣れないため、どうしてもハリスが水中で解け切れず、一部が絡まったまま上がって来たり、針がパラシュートに掛かっていたり、甚だしきは、パラシュートが開かず、えっちらおっちら回収するということまであった!
 まあ、これも勉強だ。予備校生の頃から、沖釣り師として獲物を追っていた私は、これくらいでへこたれる訳にはいかない。
 もっとも、効率を重視するなら、電動リールは確かに便利だね。
 最初は疲れと餌の匂いから、「船酔いするのではないか?」と危惧されたが、段々、やり方を学習していくと、それ所ではない。文化系人間の私も、カツオ・マグロを趣味で相手にするときだけは体育会系の根性論者か?!
 死に餌を使い、狙ったタナまで餌を沈めていく時、『老人と海』のサンチャゴ老人を思い出す。彼は竿もリールも、色分けされたPEラインも使わずに、ある意味最強だが(昔のアメリカでは、優れた竿やリールが登場するまでは、手釣りが最終手段だった)、扱いの難しい手釣り仕掛けで大物を狙うのは、職業漁師でなければ困難なことだったろう。
 今日もアミモンガラやツムブリが見えるが、メーター級のでかいシイラもうようよしている。昨日もシイラが数本、エビングにヒットしていたが、今回は私のタックルに来ても平気だ。ルアーで食わないかなあ。
 と、地元の方などはシイラを釣るためにロープ仕掛けを持ち出している。シイラは横走りするため、竿でやると時間が掛かり、他の釣り人の迷惑になるため、太いハリスを使い、強引に手繰り寄せるのがこちらの標準だとか。シイラは口切れする魚ではないので、太い仕掛けなら力対力の戦いが可能だ。
  昨日もサンノリーの方などに聞いたが、沖縄なら、JGFA日本記録の28kgよりでかいのも間違いなく上がるとか。30kg級が姿を見せることもあるらしい。与那国などで行われる、カツオをライブベイトにしたカジキ狙いでも、外道で大型シイラが食うことがしばしばあるのが、この沖縄の海なのだから。

 時期が良ければ、カツオのライブベイトに100〜300キロのクロマグロが食うこともある、この沖縄の海で、ロープ仕掛けを持ち込んだ、うちなー釣り師はあれよあれよという間にシイラ(以下マンビカー)と格闘している。マンビカーは水面でヘッドシェイクするが、餌釣りの一本針では外れるはずもない。どんどん手繰られ、船長がギャフを打って船の中にその魚体を投げ出すと、そやつは狂気のようにのたうち、暴れ回る。トレブルフックが2本付いたルアーなど恐ろしくて使えるか!


 あっと言う間にエメラルドグリーンの魚体が青に彩られ、「シイラの七変化」を観察する。相模湾の60cm程度のペンペンシイラなんか目じゃないね。
 私も試しにメタルジグを水面直下リトリーブしてみるが、反応はない。昨日はドラペンやオルポワでも無視したので、シイラのルアーゲームは見切りを付ける。
 もちろん、真面目にパラシュートを打ち返していますが、この釣り、餌だけ取られることもしばしばありますな。絡んだハリスを解き、フスマと付け餌、コマセをセットしている間に、船がパヤオに近づきすぎるので、そのたびに(10数分間隔?!)船を立て直すため、私の技術では一流し一投が限界だ。
 で、パラシュートを回収した後、何もしない訳にはいかないので、ジギングするとキメジがヒットする。これじゃ、マグロの印象が変わりそうだが、相模湾では餌でないと食わないので、連中の学習能力の高さに脱帽する。
 パラシュートでもキメジやメバチがポツリポツリとヒットするが、仕掛けの扱いに慣れたらもっと釣れるだろう。3年前、初めて乗船した時も、二日目には私がフカセで10kg級を3本上げる一方で、船長はパラシュートで20kg以上はあるキハダやビンチョウを釣っていたのだから。

 何度目かの打ち込みで、パラシュートが開いた直後、小さな当たりが来た。
 これも2kgから3kgの魚と思い、真剣勝負するだけ馬鹿らしいと侮って、キーパーに竿をセットしたままリールを巻き始めた。さっさと上げて、次のコマセを詰めようと。
 10mほど巻き上げたところで、どんどんハンドルを巻く手が重くなってきた。これはもしかして……。

 と、魚が反転して突っ込み始めた! フルドラグに設定しているにも係わらず、凄まじい重さで、リールを巻くどころではない。

 ついにビッグサイズが来た! ためらわずにロッドをキーパーから外し、でかい腹当てを下腹部に着け、ポンピングで応戦する。

最初、大人しかったのは、魚は自分が掛かったことに気づかなかったに違いない。

 前回はフロロ12号のハリスだったので、あまり強引なやり取りはできなかった。しかし、今回は違う! 
 PEラインは同じく8号だが、フロロ26号のハリスなら、フルドラグ(6kg程度)でも絶対にブレイクしないという自信があった。
 そのため、手加減していたらいつまでも寄らないという過去の教訓を活かし、魚の動きを見ながらポンピングするが、リールをローギアにして何とか距離を詰めようと図る。

 その直後、魚が一気に下へ持って行く。ドラグが効いている上、こちらも強気のファイトだが、ラインが船底に擦れる恐れがあるので、3年前と同じく、右側へと周り、ミヨシを通過して交わす。ラインの走りから、大ドモまで引き回された。
 ここで一気にリフティングを図るも、正に綱引き状態になり、恥ずかしながら、バットを船に当てなければファイト続行は不可能という、IGFAルールに抵触する形になってしまった……。
 ここで魚は一気に疾走し、数十メートルラインを引き出していく。その引きは正しく怪力だが、リーディングXゴウマンが、バットまで曲がりつつも、魚を確実にいなしていく。
 大ドモでの膠着状態はしばらく続いたが、怖がらずにやり取りできるということは、大型マグロとの対決には欠かせない要素かも知れない。
 やや大人しくなったところで、素早く元の釣り座にまで戻り、スタンディングファイトを再開するが、ポンピングの一回、また次の一回が私を圧倒する。この引きを味わいたくて沖縄まで来たのだ。早く取り込みたい心が、やり取りを楽しむ余裕を遙か片隅に押しやる。
 ギチギチギチ……。ギギギー! と、リールは悲鳴を上げ、これ以上ないほどワンピースロッドが曲がり込んでは魚と戦うが、南国の太陽の下で、私の体からは汗が噴き出してきた。
 汗ならまだしも、やり取りを続けるうちに、足腰がガクガク言い始めた。このまま無理したら明日の釣りに差し支える上、今日だって釣りの続行が可能か怪しくなってきたので、ためらうことなく私はキーパーに竿を掛け、ウインチファイトに切り替える。
「無理だ! 大物に慣れてないのに、スタンディングじゃ身が持たない!」

 スポーツフィッシングの精神に反するが、大物を獲ることこそ、今回の至上目的と割り切り、ガンガンリールを巻いていく。

 リールもハイギアに戻し、船長の指示通り、左手でラインを手繰っては右手でリールに巻き取る。次第に、魚との距離が詰まってきた。

 勝利を確信し、油断せず巻き取るうちに、ついに紺碧の海に黒いパラシュートと、その下で走るメタリックな輝きが見えてきた。

「オモリまで巻いたら、竿をキーパーに戻して。ドラグは緩めにするように」
 船長も手袋を脱ぎ、ギャフを持ってきて取り込みの準備に掛かった。

 他のお客さんたちも注目する。
 残りの数メートルを巻き取り、竿先にオモリがぶら下がった。キーパーにセットされた竿の右側のハリスを船長が掴み、目標の20kgはありそうな魚を確実に手繰り寄せる。海人の技が映える瞬間だ。
 魚が水面まで浮いた瞬間、船長の銛が、マグロを打ち抜いた。
 急所に当たったため、大人しくなったところで、船長は銛綱を手繰る。私もシャッターを切るが、これで絶対に逃げられる心配はなくなった。
 素早くギャフが掛かり、自己記録を楽に更新した魚は船に引き揚げられた。ついにやったぜ! 昔から夢見ていたでかいキハダマグロを、相模湾では果たせなかった大物の夢を、今、沖縄で叶えた!
 船長が素早く銛っ端を取り外し、私はその間にデジタル秤を持ってくる。検量の結果、堂々の21kg!

 まだまだ大きいのがこの海にはいるが、目標の20kgを達成できたので満足。

 隣の釣り人に頼んで、写真を撮ってもらうと、素早く下処理を始める。

 なお、右写真で見える、腹の穴はダルマザメ(クッキーカッターシャーク)の仕業だ。


 鰓蓋を開き、大きな鰓を切り取ると、続いて腹ワタを引き抜いた。胃袋・肝臓・心臓・小腸などを引きずり出し、辺りは血まみれになるが、船上に数本あるホースの海水で、血は瞬く間に洗い流される。
 胃袋をナイフで切り裂くと、撒いた餌は入っていなかったが、小さな甲殻類、500円玉大のシマガツオ類の稚魚、そしてマグロの目玉らしきものが入っていた。眼球だけ撒くやつがいるのか?!
  その様子も撮影次第、素早くクーラーに仕舞ってパラシュートを再開。何せ、この前後にエビングの人も15kgはあるやつを連発していたのだから!

「お兄ちゃんが餌を撒くから、魚の活性が上がってきたよ」

 なんて冗談とも本気ともつかない台詞を耳にするが、正直、私もジギングの誘惑に駆られる。エビングで食うのだから、タナまで落とせばジグでも絶対に食わせることができると確信した。

 しかし、シイラロッドではやり取りに時間が掛かる上、警戒心の強い大物なら、餌がより有利だと判断し、再びパラシュートを打ち込む。当たったら、すぐ判るようにリールのクリック音が鳴るよう調整する。

 すると、あっと言う間にリールがギーギー言い始める!

 当たりの瞬間から、ラインが持って行かれるので、もしかしてさっきのよりでかい? すっかり大物の引きに参ってしまった私は、又もやキーパーに掛けたまま、ウインチファイトを続行するが、さっきのような長い膠着状態にまでは至らなかった。
 無事に浮かせた魚は、15kgほどだったが、船長の手慣れたギャフさばきで無事、甲板に横たわった。
 こちらも胃袋を切り裂くと、果たして撒いたムロアジのぶつ切りが出てきた。キビナゴは食っていないのか?

 他には12cmほどのムロアジの稚魚らしき魚が2尾出てきた。シャッターチャンスを逃さず、デジカメのレンズを覗く。
 切り裂いた胃袋は、ぬめりを取って、船長のためにクーラーに収める。湯がいた後、炒めて食べると美味しいんです。これが。

 と、その間にも隣の釣り人がロープ釣りでシイラを獲った。暴れ回るシイラは、船長がマグロを寝かせるための巨大なスポンジで押さえ、頭に神経抜きの鉄棒が突き立てられる。
 使っている餌は、キメジの切身です。しかも、寿司ネタより大きいくらいのサイズ!
 最後の一流しでは食わず、もしかしてさっきのタナは180mだったが、間違えて130mのタナでパラシュートを開いたのではないかと訝しむも、2本良型を仕留めたので、満足して今日の釣りを終えた。
 帰港途中でイルカが跳ね、一瞬、残ったムロアジを撒いて船におびき寄せようかと考えたが、イルカがこの大将丸のエンジン音を覚えたら、明日の出漁でイルカをパヤオに案内することになりかねず、そうなったら釣りにならないと即座に判断し、動画で撮影を試みるも、失敗に終わった。

 帰港後、運送屋さんに港まで獲物を取りに来てくれないか、船長に尋ねてもらうも、昨日と同じく空港の営業所まで持ち込まないと無理とのこと。
 そこで腹をくくり、船長に出刃包丁とまな板を借り、停泊している船上で解体に挑んだ。思わず汗が垂れそうになるが、拭っては手を洗い、マグロを解体する。
  船長は仲間と、船外機付きのボートで漁に出たが、戻ってくるまでの間に解体しようと、まずは15kgを四つ割りのロインに下ろし、包装してはポリ袋に半身分ずつ収める。中落ちは口に運び、中骨だけは廃棄するが、頭は送ってかぶと焼きだ。
 21kgには卵巣が入っていた。

 この与根漁港は、那覇空港の近くにあるため、降下してくる飛行機がよく見える。もしや、私がこうやって獲物を捌いている姿も、上空の飛行機からは見えているかも?

 船長が戻って来たときには、21kgの方を半身にまで捌いた状態だった。漁ではハリセンボン(アバサー)や、ソウシハギ(センスルー)が獲れていたが、外道にホラ貝に入った巨大なヤドカリや、トゲチョウチョウウオ、イットウダイやアカマツカサもいた。

 で、私はタクシーにロインを乗せ、コンビニで氷を仕込んで、発送にかかる。
 しかし、でかいマグロのロインを包む、グリーンバーチと呼ばれる紙が、残り少なくなってきた。これでは丸ごと送るしかない。運送屋さんに聞いても、丸ごと大物を入れるほどの箱はないが、持ち込む分には構わないとのこと。
 そこで、腹をくくって軽トラを借りることにした。箱は調べ回った結果、でかいのが釣れたら、漁協などで購入するしかないという結論に達する。
 眼鏡は宿に置いてきたので、手続きだけして、宿でレインウェアを洗濯している間に、借りた軽トラを回収してきたが、何とか宿の駐車場に収め、早朝のチェックアウトに備えて、もう使わぬ荷物を積み込む。
 

夕食はソーキそばの大盛りと、県産のもずく也。

 いやはや、大型マグロを釣るため、道具を揃えてから苦節4年、ようやく20kgを超えることができた。
 今や、釣りの世界でも100kgを超えるクロマグロがルアーで釣られ、キハダも50kg級を狙って釣ることができる時代だから、20kgでは決して大きいとは言えないが、それでも実際に仕留めたことに意義がある。
 10kg級はもはや余裕で対処できるようになってきたが、20kgは別物だ。

 次の目標は30kg、40kgと、夢はますます広がっていく。



 5月20日


 今日は沖縄最後の釣りである。悔いのないよう全力を尽くそうと決意し、用心しながらマニュアル車のハンドルを握り、コンビニで必要な食料などを買い込み、車を停める。
 準備して乗り込むと、今日は同じく内地・東京から初心者のお客が3名、地元の釣り師は一人だけだ。
 パヤオへ向かう途中も、この釣りがいかなるものか素人ちっくな説明をし、朝一はパヤオに向かってプラグをぶん投げようとオルポワを結ぶ。
 氷蔵していた餌の鮮度も申し分ないが、今日はこれで持たせないといけない。初心者の方も、ガンガン釣って欲しいねえ。
 そう思いつつも、2時間先のパヤオに走るため、時間は十分ある。日が昇ってきたので、あらかじめ日焼け止めを塗りたくるが、それでも相当、焼けるだろうなあ……。
 地元の釣り人とも会話を楽しみ、一工夫してあるパラシュートや、道具類を持ち込むためのプラスチックケースなどを拝見しつつ、今日の魚に備える。

 パヤオに到達すると、数隻の船が先に来ていたが、大ドモの人は電動エビングを開始し、私はパラシュートを準備しては、初心者の皆さんへのサービスとばかり、キビナゴを水面にばら撒く。
 彼らはフカセ釣りの道具立てだが、案の定、アミモンガラやツムブリに邪魔をされて、思うような結果が出ない。
 そこで、船長が電動エビングの道具を持ち出すと、ポツリポツリと小型キハダ・メバチが食い出す。
 で、私はって? パラシュートを開くと、メバチが来ましたが、ハリスが絡まったまま食っちゃったので、26号に結び目ができちゃって、これがまた……。
 ま、パラシュートで当たりがない時は、ハリスが絡んでいる公算が大だと割り切り、早めの投入・回収を繰り返したが、大型魚はなかなか当たらない。
 水面では、フスマにも餌取り連中が群がるので、お土産にしようとツムブリを狙ってみると、タイミングが合う度にヒットする。真っ先に餌に群がるのはホシモンガラだが、キビナゴなら、それを押しのけてツムブリが浮上するのだ。
 そして、案の定、メーター級のシイラも現れる。
 もちろん、真剣にパラシュート仕掛けを打ち返していたのだが、ハリスが絡んだり、小型のみのヒットで、いささか参った私は、皆さんへのサービス、そして遊び心という言い訳を思いついて、シイラの自己記録にチャレンジする。(相模湾のカツオ船では、メーター級はなかなか狙えなかった)
 しかし、パヤオのシイラがスレていないはずはなく、撒いたキビナゴは食っても、16号のハリスと、極太タマンの16号は見破るので、試しにムロアジのぶつ切りを放り込む。すすると、餌がでかいのでごまかせるのか、一発で食った。
 ただし、その直後にPE3号のビミニツイスト部が切断されたが……。
 慌ててラインシステムを組み直している間に、船長もロープ仕掛けにムロアジを付けて放り込む。あっと言う間にメーター30はあるシイラを獲った。
 初心者の皆さんも驚くが、私も対抗心を燃やし? シイラが現れないか、海面を凝視する。皆さんにもムロのぶつ切りを使ってもらうが、掛かっても獲れないようだった。

 

で、何とか私も二度目のバイト。 がっちり合わせ、強引を楽しむが、去年からこのタックルで10kg〜推定30kgのマグロ、メーター半はあるサメと戦ってきただけに、どこか余裕がある。
 ファーストランも軽く交わし、数回のジャンプも余裕で楽しみ、5分足らずで初のメーターオーバーは足下に横たわりました。ルアーやフライで釣れたら、もっと楽しいんだけどね。
 もっとも、こやつの鰓を切ろうとして、自分の左薬指まで切ったのは絶句もの。しばらく血が止まらず、本気で止血して収集をつけたが、慣れって恐ろしいものですね。
 もうしばらく粘ったが、ここのパヤオに見切りを付け、船は別のパヤオまで走った。

 こちらでもハリス絡みのせいで? パラシュートでの大物当たりはなかなか来ないが、電動エビングではメバチが入れ食いだ。私もパラシュートの合間にヒラジグラや近海仕事人、果てはシーバスで使った赤金のシーフラワーまでしゃくるが、これらでは全然当たりがない。

 ふと見ると、船長が電動タックルではなく、ソルティガヒラマサ56HSと、ソルティガ6000番でエビングを始め、毎回のようにメバチを釣っている!


 私も「ビッグサイズが食うと確信できない」と、腹をくくり、お土産にメバチを何としても釣ろうと考え、ルアーケースをもう一度漁ると……。
 あった。キビナゴとジャストサイズで、初日にPE3号でも難なく扱えた、高価だけど評価も高いスキ○ジグをリーダーに結び、皆さんが釣っている左舷を避け、右舷からジグを投じる。
 念のため100mほどカウントダウンし、時々フォールを入れながらジャークしてくると、60mほどの所でガツン! 派手にドラグを滑らせはしないものの、マグロ特有の手応えを十分に堪能し、リーダーをつかんで引っこ抜く。狙い通り、メバチだ。

 沖縄のパヤオでは、ジギングはサイズさえ問わなければ相当に有効な釣り方だと認識。このメバチが浮けば、もっと楽しいんだけどね。
 残りの時間でも何本かジギングで確保し、最後の一流しで、ハリスを22号にまで落としてやってみたら来たけど、案の定3キロ半ほど……。
 まあ、先日の21kgで満足していた私は、餌を使い切ったことに満足し、船長が捌いてくれた刺身を、皆で食べながら帰港した。
 
 港では皆さん、獲物の数に驚き、食べる分だけを持って帰っていたが、私は水道で道具を洗いつつ、軽トラの荷台を使って上手く荷物をまとめ、最後には着替えも敢行。
  船長にお話を聞くと、気になっていたトビイカのマグロは、ちょうど来週から久米島沖まで13時間ほどかけて出漁するとか!

 掛かるサイズもメバチとキハダで60kgほどあり、時にメカジキが食うこともあるとか。(ファイト自体はシイラと同じだとのこと)
 機会があったら次回も訪れることを約束し、名残惜しくも私は与根漁港を後にした。

 残りの片付けは、楽しくもあり、また寂しさも感じさせるが、今日の獲物を発送し、空港の駐車場に軽トラを停め、先に搭乗手続きを行って荷物を預ける。
  レンタカーを返却すると、ゆいレールで空港へ折り返した。

 夕暮れが近づく中、沖縄の最後の日照が海へ沈んでいく様を、何とも言えない感情を味わいつつ見つめる。3年ぶりに訪れた沖縄、新たなその魅力、久しぶりの仲間との再会、そして念願の大物。


 それらが間もなく、過去のものとなっていくことが、時間の流れの切なさを実感させる。夢は果たしたが、新たな夢に挑むには、どれだけのものを要するのだろう。
 と、愚考しつつも果物を食べ、お土産を漁り、機内で夕食と洒落込むべく、大東寿司(サワラとカジキの漬けを握ったもの)やサータアンダギーをも購い、私は飛行機に乗り込んだ。

 最初に沖縄を訪れてから10年、この前来てから3年、久しぶりだったけど、楽しかったよ。沖縄。

 次はトビイカを使い、さらなる大物を仕留めたい。

 
なお、この記事は『おきなわ釣り王国』第79号に掲載された。














(大将丸の大城船長 問い合わせは090-3793-0013)




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